詩と史実
こんばんは。
今日、曹植「雑詩六首」其六の訳注稿を公開しました。
詩の主人公は高くそびえる楼閣の上に立ち、四方を眺望しながら、
自身に王朝の危急を救い得るような役割が与えられていないことに鬱憤を重ねています。
内容面でも辞句においても、「雑詩六首」其五との類似性が顕著であることから、
少なくとも、この二首は非常に近い時期に作られたのだろうと思われます。
この二首をはじめ、
「雑詩六首」のすべてを、黄初四年(223)、鄄城での作と見る李善の説は、
かなり説得力があると今では考えています。
その根拠が示されていないため、かつては賛同できなかったのでしたが。
ところが、黄節『曹子建詩註』巻1は別の捉え方をしています。
曹植の「東征賦」(その序に建安19年(214)と明記)との類似性により、
本詩を、曹操の呉への出征に加わりたいと熱望する若き日の曹植の作と見ているのです。
どちらが(あるいはまだ他にも説があるかもしれませんが)、より真実に近いのでしょうか。
詩の内容を史実と結び付けながら、その作品の成立年代を推定するという方法では、
結局、たしかな結論を導き出すことはできないのかもしれません。
内容よりも、表現の連関性の方に目を向けた方がよい、
その際、似ているという指摘にどこまで客観性を持たせることができるか、
それが決め手になるだろうと思っています。
2020年6月22日