白居易の弁明:「和雉媒詩」
こんにちは。
昨日に続き、今日も雉媒をめぐる元白詩を取り上げます。
元稹の「雉媒」詩は、
人間に捕獲されて雉媒(おとり)となり果てた一羽の雉と、
その古なじみの彼によって、災厄に陥れられた雉の物語を詠ずるものです。
もちろんこれだけでは、この一対の雉が白居易と元稹とを比喩するとは言えません。
事実として、二人の間に裏切り行為はなかった、ということを理由に、
昨日示した解釈を一蹴する読者もいるだろうと思います。
ただ、作者元稹の中ではそうした構図ができていたかもしれない、
そう推測し得ると考えたのは、
詩の途中に、「我」「君」という人称代名詞がふいに登場し、
災厄に陥った雉が、自らを一人称で「我」と称し、
この「我」が、相方を「君」と二人称で呼ぶようになっているからです。
これは、一対の雉の物語の中に、思わず冷静さを失うほどに、
自身と相手(おそらくは白居易)の姿が重なって見えたからに他ならないでしょう。
この詩に対応する「和雉媒詩」(『白氏文集』巻2、0106)を見るに、
元稹「雉媒」詩を読んだ白居易もまた、そうした受け止め方をしたように感じられます。
01 吟君雉媒什 君の「雉媒」の詩篇を吟詠しながら、
02 一哂復一歎 ひとしきり微笑んだりまた慨嘆したりした。
03 知之一何晚 この詩を知ったことの、なんと遅かったことか、
04 今日乃成篇 今日になってやっと、これに和する詩篇が出来上がった。
05 豈唯鳥有之 こうしたことは、どうして鳥のみにあるだろう。
06 抑亦人復然 そもそも人もまた同様でもあるのだ。
07 張陳刎頸交 張耳と陳餘との刎頚の交わりも、
08 竟以勢不完 ついにそれぞれのめぐり合わせた趨勢によって完遂せず、
09 至今不平氣 今に至るまで、陳餘の不平に満ちた気が、
10 塞絕泜水源 泜水の源を塞ぎ、流れを途絶させているほどだ。
11 趙襄骨肉親 趙襄子の、血を分けた姉との親しみも、
12 亦以利相殘 また利欲によって彼女の夫を残殺するという末路をたどり、
13 至今不善名 今に至るまで、不善という不名誉が、
14 高於磨笄山 姉の亡くなった磨笄山よりも高くそびえている。
15 況此籠中雉 まして、この籠の中の雉は、
16 志在飮啄間 飲んだり啄んだりするあたりのことを志しているのであって、
17 稻粱暫入口 稲や粱(おおあわ)がとりあえず口に入れば、
18 性已隨人遷 本性はもう、人に飼い馴らされてしまって変質している。
19 身苦亦自忘 自身の苦しさも自ら忘れているくらいだから、
20 同族何足言 同族のことなんぞ言うまでもない。
21 但恨爲媒拙 ただ彼が心配しているのは、仲媒としての働きが拙くて、
22 不足以自全 十分に自らの身を全うできないのではないかということだけだ。
23 勸君今日後 君に勧めよう。今日より以後、
24 養鳥養青鸞 鳥を飼うなら青鸞を飼いたまえ。
25 青鸞一失侶 青鸞は、ひとたび伴侶を失うと、
26 至死守孤單 死ぬまで孤独を守り通すということだ。
27 勸君今日後 君に勧めよう。今日より以後、
28 結客結任安 客人と交わりを結ぶなら任安と結びたまえ。
29 主人賓客去 主人のもとから他の賓客たちが去っていっても、
30 獨住在門闌 彼は一人、その主の家に留まったというから。
この白居易詩から、なぜ前述のような解釈が引き出せるのか、
その理由はまた日を改めて述べます。
2022年1月29日