曹植「聖皇篇」札記3
曹植「聖皇篇」の中に、「乗輿服御物」という句が見えます。
これと同一の句が、蔡邕『独断』上に次のように見えています。
乗輿出於律。
律曰、敢盗乗輿服御物、謂天子所服食者也。
天子志尊、不敢渫瀆言之。故託之於乗輿。乗猶載也。輿猶車也。
乗輿という語は律に由来する。
律にいう「敢えて乗輿の服御物を盗んだ場合は」は、天子の衣服食物を言っているのだ。
天子は最高に尊い存在なので、これを口にして冒涜することはとてもできない。だから、
それを乗輿に託して言うのだ。乗とは載る、輿とは車の意味にほぼ等しい。
曹植は、この律の文をそのまま詩に織り込んだのかもしれません。
というのは、これと隔句対を為す「竜旗垂九旒」が、
『礼記』楽記にいう「竜旂九旒、天子之旌也(竜旂九旒は、天子の旌(はた)なり)」を
ほとんどそのまま用いているからです。
(対を為す以上、バランスが取れる同等の語句を配するのが普通です。)
曹植の詩歌には、
身辺にごろりと転がっているような言葉を、
経書に見えるような言葉と同等に並べて用いるような、
常識を軽々と超える、ざっくりとした自由さがあるように思います。
2025年1月10日