深読みの誘惑

曹植「鼙舞歌・孟冬篇」を読んでいます。
本作品は、皇帝の華麗なる狩猟の様子を詠い上げるものですが、
その中にこうあります。

張羅万里  羅(あみ)を万里に張り、
尽其飛走  其の飛ぶもの走るものを尽くす。

広大な敷地を舞台に繰り広げられる狩猟の楽しみを詠ずる句として、
自然に読解することができる表現です。

ところが、黄節『曹子建詩註』に導かれ、次のような類似句にたどり着きました。

『後漢書』巻十六・寇恂伝附寇栄伝に引く、
地方長官たちの苛烈な処罰を批判する寇栄の上書の中にいう、
「張羅海内、設罝万里(羅を海内に張り、罝を万里に設く)」です。

寇栄の上書中にある対句八字を、四字を圧縮しているのが曹植の歌辞です。

これを見て、真っ先に想起されたのは、黄初年間中の曹植が、
臨淄侯時代の彼を見張った監国謁者潅均のみならず、
鄄城侯に移ってからは、東郡太守王機らにもまた罪を挙げられたことです。*

都を離れた地にあって、その言動を厳しく監視されていた曹植の境遇を知り、
寇栄の上書に、それと酷似する内容・表現のあることを認めると、
つい、前掲の「張羅万里」云々の辞句が、
ある特別な意味を持って立ち上がってくるのを禁じ得ません。

けれども、表現の類似は偶然であったかもしれません。
また、表現の一部を切り取って、現実と結びつける解釈には首肯できません。

ただ、上述のような現象が幾たびか重なれば、
作品世界と現実との間に、何らかの相関関係を認めることができるでしょう。

2025年8月1日

*柳川順子「黄初年間における曹植の動向」(『県立広島大学地域創生学部紀要』第2号、2023年)を参照されたい。