「君」という呼称

こんばんは。

古詩「行行重行行」に関して、もうひとつ未詳なことを記します。
詩の本文と通釈は、こちらをご参照ください。

この詩の解釈として、
前半八句を、旅行く男性の立場から、
後半八句を、留守を守る女性の立場から詠じたものと見る説があります。*1

これはとても魅力的な捉え方ではあるのですが、
この時代、男性から女性に向けて「君」という呼称が用いられている事例が、
現存する文献資料を見る限り確認できなかったため、
一篇を通して、女性の立場から詠じられたものとして通釈しました。*2

ただ、何しろ自分は文字どおりの管見です。
かの『楚辞』では、君主をあたかも女神のように見立てる例もあるので、
もしかしたら、一般の男性から女性に向けられた呼称にも、
「君」が用いられている例があるかもしれません。

また、唐代に入ってからは、
女性と思しい相手に、「君」と呼びかけている詩の例もあります。*3
すると、漢代すでにそうしたことの萌芽が見えていた可能性も否定できません。

そのようなわけで、
漢魏詩における「君」という呼称については今も待考です。
どなたかご教示をいただけませんか。

2021年8月17日

*1 花房英樹『文選四』(集英社・全釈漢文大系29、1974年)p.222を参照。
*2 拙著『漢代五言詩歌史の研究』(創文社、2013年)p.130、注(10)に記したとおり。
*3 あるいは、その相手は女性ではなく、男性であった可能性もあります。
というのは、唐代の書簡(男性どうしで交わされたもの)では、あたかも恋文を想像させるような表現が常套的に用いられていたので。論著等とその概要]の[報告・翻訳・書評等]№15をご参照ください。原稿も公開しています。