「志士」と「小人」
曹植「贈徐幹」詩の解釈の続きです。
昨日は引用しなかった、冒頭から18句目までは以下のとおりです。
01 驚風飄白日 激しい風が白く輝く太陽を吹き飛ばし、
02 忽然帰西山 太陽はあっという間に西方の山へ帰っていった。
03 円景光未満 月はまだ満月の光をたたえてはおらず、
04 衆星粲以繁 あまたの星が燦然とびっしりと輝いている。
05 志士営世業 志士は、先祖代々受け継いできた仕事に精を出し、
06 小人亦不閑 小人もまた、閑居して不善を為しているわけではない。
07 聊且夜行遊 まあとりあえず夜の散歩にでかけ、
08 遊彼双闕間 かの向かい合う宮城の門のあたりをぶらついてみた。
09 文昌鬱雲興 文昌殿はうっそうと雲が湧きあがるように建ち、
10 迎風高中天 迎風観は高くそびえて天に届かんばかりだ。
11 春鳩鳴飛棟 春鳩は、飛翔するかのごとき高い棟木の間に鳴き交わし、
12 流飆激櫺軒 渦を巻いて流れる風は、連子窓を備えた長廊に激しく吹き付ける。
13 顧念蓬室士 振り返って粗末な草堂に暮らすそなたに思いを馳せれば、
14 貧賤誠足憐 その貧賤のあり様にはまことに憐憫を禁じ得ない。
15 薇藿弗充虚 ゼンマイやアカザは空腹を満たさないし、
16 皮褐猶不全 粗末な皮衣では身体を十分に覆うこともできない。
17 慷慨有悲心 そなたは悲憤慷慨の思いをかかえ、
18 興文自成篇 それを美しい言葉に紡げば自ずから作品に結実する。
このうち、第7~12句は宮殿の有り様、13~18句は貧困の中で著述に励む人の描写です。
その前に置かれた「志士」と「小人」は、これに対応すると見ることができるでしょう。
すなわち、宮殿にいる「小人」と、その外にわび住まいしている「志士」です。
「志士」は、誰もが認めるとおり、徐幹その人を指すに違いありません。
では、「小人」とは誰か。
『集注本文選』に引く『文選鈔』は、これを曹植その人だと解釈しています。
冒頭4句を叙景と見て、第7・8句の行動の主体を「小人」と見るならば、それが自然でしょう。
4句目までを時代状況の比喩と見るならば、「小人」を文字どおりに取ることも可能でしょうが、
そうすると、第7・8句が浮き上がってしまいます。
また、本詩の成立は、曹植が数々の失態により父曹操の寵愛を失った頃だと推定できますが、
そのような状況の中にある人が、他者のことを「小人」呼ばわりするのは不自然です。
さらに言えば、これは謙遜語でもなく、曹植の自己認識なのかもしれません。
このように見てくると、詩の後半における徐幹への語りかけ方にも納得がいきます。
相手への敬愛を詠じつつも、若干の距離を感じさせる表現(第25・26句)となっていたのは、
自身がこうした状況に陥っていたからではないでしょうか。
それではまた。
2019年11月1日