『山海経』の比翼の鳥
調べ物で『山海経』を見ていて、
その西山経に次のような記述があることに目が留まりました。
(崇吾之山)有鳥焉、其状如鳧、而一翼一目、相得乃飛、名曰蛮蛮、見則天下大水。
(崇吾の山には)鳥がいて、その形状はカモに似ているが、一翼一目で、二羽が一緒になって始めて飛べる。名を蛮蛮という。この鳥が現れると大洪水が起こる。
これは、ほとんど『爾雅』釈地に見える次の説明と同じものを指すようです。
南方有比翼鳥焉。不比不飛、其名謂之鶼鶼。
南方に比翼の鳥有り。比せずんば飛ばず、其の名 之を鶼鶼と謂ふ。
両者では、西と南という方角に違いがありますが、
『山海経』海外南経の南山の項にも、
比翼鳥在其東。其為鳥青赤、両鳥比翼。
比翼の鳥 其の東に在り。其の鳥為るや青・赤にして、両鳥 翼を比(なら)ぶ。
とあるので、記述が食い違うとまでは言えません。
そして、前掲『爾雅』の郭璞注に次のようにあるのは、
『山海経』の西山経と海外南経とを綴り合せていると見ることができます。
似鳧。青赤色。一目一翼、相得乃飛。
鳧に似たり。青・赤の色なり。一目一翼にして、相得て乃ち飛ぶ。
郭璞(276―324)は、『山海経』にも注を付けていますから、
このあたりのところはまるで掌を指すようなものだったと想像されます。
それで、この比翼の鳥に『山海経』で出会って立ち止まったのは、
どこかの博物館で、中央アジアあたりの文物としてこの鳥を見た記憶があるからです。
それを見た時も、まるで比翼の鳥だと思った感覚は覚えているのですが、
記憶違い(「羽人」と混線して)かもしれません。
もしその記憶がまぼろしでないのなら、
『山海経』は太古の人々の地理的認識をよく書き留めた書物だと思います。
2023年8月3日