ボールペンと万年筆

こんばんは。

しばらく休ませていた万年筆にインクを入れて、試し書きしてみた一昨日。
危ぶまれていた不調もあらわれず、すっかり回復した様子です。

普段、メモを取るときはボールペンを使っているのですが、
ためしに手帳へのメモを、この回復した万年筆で書いてみたところ、
字がとても丁寧になることにハッとさせられました。

それで思い出したのが、古楽器によるバロック音楽の演奏です。
35年ほど前の手帳に(買ったばかりの万年筆で)書き記してあったことを、
ひっぱり出して読み返してみました。
たぶん、ラジオか何かで聴いたことを契機としてのメモでしょう。

モダン楽器は、どの音程もどの調も均質であることを目指し、
バロックの古楽器は、楽器自体による制約から、
その不均質さを逆に生かして、音の微妙な陰翳を大切にするそうである。
モダンは、楽器を人間に従属させ、
バロックは、楽器から人間への働きかけを、人間が受けとめ、
それとの相互作用によって第三の方向を打ち出す。
他者からの働きかけによる制約は、時としてプラスとなることもあるのだな。

古楽器の音色は、とても繊細でふくよかで、色っぽい感じさえします。

そして、人間がすべてをコントロールする近現代の文明よりも、
人間と自然とが共存する古代中世の人々の方に、私は親しみを感じます。
(もちろん様々な困難があったはずで、単純に昔の方がよかったとは思いませんが)

ボールペンは、自分の思考のスピードに沿ってくれるけれど、
万年筆は、どうしても緩やかな手の動きで記述することとなります。
そして、その時間のたゆたいの中でこそ醸成されるものがあるように感じます。
だからこそ、いつまでの記憶の底に残っていくのでしょう。

古人の作品をノートに書き写すときばかりでなく、
時には考察のメモにも万年筆を使ってみようかと思いました。

2021年3月10日