元白応酬詩札記(5)

こんばんは。

先にこちら(2020.06.29)で考察を始めたことについて、少しだけ続きを記します。

白居易は、江州に左遷されて三年目、元稹に宛てて「与微之書」を書きましたが、
その中に、元稹「酬楽天八月十五夜、禁中独直、玩月見寄」詩に見える「瞥然」「塵念」が、
「平生故人、去我万里。瞥然塵念、此際暫生」と用いられていたことは先に述べました。

さて、この「瞥然塵念」云々に続くのは、次のような文面です。

余習所牽、便成三韻、云、 
身に染み付いた習慣によって、すぐに三韻から成る次のような詩ができた。

憶昔封書与君夜  思えば昔、書簡に封をして君に送り届けようとした夜、
金鑾殿後欲明天  大明宮中の金鑾殿の背後には夜明けの空が広がりつつあった。
今夜封書在何処  今夜、どこにいて書簡に封をしているかというと、
廬山菴裏暁灯前  廬山の草庵の中、明け方の灯の前である。
籠鳥檻猿倶未死  籠の中の鳥も檻の中の猿も、ともにまだ死んではいない。
人間相見是何年  人間界において再会するのはいつになるであろうか。

この詩の最初の二句は、
次に示す、白居易「禁中夜作書与元九」(『白氏文集』巻14、0723)を指しています。*1

心緒万端書両紙  伝えたい思いは無限にあるのに、書いた手紙は二枚だけだ。
欲封重読意遅遅    封をしようとして、読み返せば言い足りないことばかりが目について、気が進まない。
五声宮漏初鳴後    宮中の水時計が、五更(一夜を五つに分けた最後の時間)を告げて鳴ったばかり。
一点窓灯欲滅時    今、窓辺の一点の灯が燃え尽きようとしている。

この詩は、前掲の元稹詩が応酬した、
白居易「八月十五日夜、禁中独直、対月憶元九」詩(0724)と同時期の作とされています。*2
つまり、白居易は「与微之書」の末尾に至って、ある特定の時期を思い浮かべ、
その頃に自分が元稹に宛てた詩や、それに応酬した元稹詩の辞句を引用しているのです。
そして、それは廬山における現在の境遇と対照的に詠じられていたのでした。

「与微之書」は、「微之、微之。此夕我心、君知之乎」という語で結ばれるのですが、
果たして元稹はこの白居易の思いをどのように受け止めたのでしょうか。

白居易が、この書簡の中で「瞥然塵念」という語を引用した理由は何なのか、
まだ今ひとつくっきりとした像を結びません。

2020年7月6日

*1 岡村繁訳注『白氏文集 五(新釈漢文大系)』(明治書院、2004年)p.439を参照。
*2 花房英樹『白氏文集の批判的研究』(彙文堂書店、1960年)所収「綜合作品表」を参照。