元白応酬詩札記(6)追記

おはようございます。

昨日紹介した元稹「書楽天紙」詩について、追記します。

詩の本文だけを見るならば、次のような解釈もあるいは可能かもしれません。

金鑾殿裏書残紙  金鑾殿の中で、残りものの紙に手紙を書いて、
乞与荊州元判司  荊州の元判司に与える、と君は宛名を記したのだろう。
不忍拈将等閑用  朝廷から支給された紙の残りを粗末に扱うことははばかられて、
半封京信半題詩  半分には都からの便りをしたため、半分には詩を書きつけたのだろう。

ぎりぎりまで迷った末に、昨日のような捉え方をしましたが、
そう判断した一番の根拠は、本詩の詩題「楽天の紙に書く」でした。
これにより、白居易から元稹に諫紙の残りが贈られたことを詠じたのだろうと見たのです。*

昨日の解釈とは後半2句の主語が大きく異なりますが、
いずれにしても、「残紙」「乞与」といった語句、「判司」と「金鑾殿」との対比など、
そこに心情の屈折が読み取れることは、昨日述べたことと変わりありません。

たとえば「乞与荊州元判司」という語について、
白居易から送られてきた書簡、あるいは紙の束に、本当にこのとおり記されていたかは不明です。
それよりも、元稹がこのように感じ取ってそう表現したということに目を留めて、
そこに元稹のこの当時の心境を読み取ろうとしているのです。

「残紙」という言い方にしても同様です。
事実としては、そこに朝廷から支給された紙の残りがあるだけです。
白居易からすれば、当時としては非常に貴重であったその紙を、
文人としても一流と認める親友に使ってほしい一心で送ったかもしれない、
それを元稹は、残り物の紙を左遷された自分に恵んでくれたと受け取ったのでしょう。

なお、元稹はその時点から四年ほど前の元和元年(806)、
制科にトップで及第してすぐに左拾遺(諫官)に抜擢されていますから、
直近まで左拾遺を務め、今は翰林学士の職を兼任している白居易の職務は熟知しています。

2020年7月8日

*呉偉斌輯佚編年箋注『新編元稹集』(三秦出版社、2015年)第五冊、p.2566も同方向の解釈を取る。