公開の交往詩

こんにちは。

先週取り組んでいた論文には、ひとつ欠落した視点があります。
それは、白居易と元稹との交往詩は、広く世の中に公開されていたということです。

たとえば、通州司馬の元稹と、江州司馬の白居易との間に往来した詩について、
『旧唐書』巻166・元稹伝にこうあります。

雖通江懸邈、而二人来往贈答、凡所為詩、有自三十五十韻乃至百韻者。
江南人士、伝道諷誦、流聞闕下、里巷相伝、為之紙貴。
観其流離放逐之意、靡不悽惋。

通州と江州とは遠くかけ離れてはいるが、二人は詩を贈り合って、
凡そ作った詩は三十韻五十韻から百韻に及ぶものまである。
江南の人士は口々に諷誦し、それが朝廷にまで流れ、民間にも伝わり、このため紙価が高騰した。
その都を追われて流浪する思いを詠う詩想を見るに、すべてが悲痛極まりない。

拙稿で取り上げた詩が、この記載内容に該当するかは不明ですが、
遠く離れた彼らの詩のやり取りに対して、世間の人々が注目していたことは確かです。
元白交往詩への愛好は、それ以前から社会現象となっていましたから(前掲『旧唐書』元稹伝)。

このことを念頭に置いて論じる必要があったと思います。
近視眼的一点集中の落とし穴です。

ただし、公開の友情であるからといって、それが虚偽だということにはならない。
むしろ、生々しい感情が昇華されて、真なる思いが立ち現れることもあったのではないでしょうか。
現代でも、往復書簡や対談のスタイルを取る書物があります。
それと同じだろうと思います。

2020年9月22日