定型文に拠りつつ

こんにちは。

やっとひとつ、新しい「曹植作品訳注稿」を公開できました。
黄初三年(222)、鄄城王に立てられたことへの謝意を記す上表文、
「封鄄城王謝表(鄄城王に封ぜられて謝する表)」(『曹集詮評』巻7)です。

この文章の結びに、次のようにあります。

雖因拝章陳答聖恩、下情未展。
(章を拝するに因りて聖恩に陳答すと雖も、下情未だ展べず。)

ここにいう「陳答」は、用例の少ない語です。
ですが、前掲句の「拝章」「陳」「情」を一連としたかたちでは、
当時の公的文書の中に複数箇所、同一のフレーズを見出すことができます。
たとえば、『三国志(魏志)』及びその裴松之注に引くところでは、
巻2・文帝紀の裴注に引く、魏王曹丕の後漢献帝に対する上書、
巻9・曹洪伝の裴注に引く『魏略』に記す、曹洪の文帝曹丕に対する上書、
巻11・管寧伝に載せる、文帝に対する管寧の上疏文等々に、
「拝章陳情(章を拝して情を陳ぶ)」と見えています。

「拝章陳情」は、当時におけるこの種の文章の常套句だったのでしょう。

もしかしたら曹植は、この定型文に依拠しながらも、
敢えてそこから少し外れる表現を取ることで、
「聖恩」すなわち皇帝からの恩沢に、返礼を述べるということ、
「下情」すなわち自身の心情は、十分には言い尽くせていないということを、
明瞭に打ち出そうとしたのかもしれません。

2022年11月22日