新しく知ることの愉しみ

先週、公開講座で曹植と父曹操との関係についてお話ししました。
熱心に耳を傾けてくださる方々に勇気づけられ、毎年楽しみにしている講座です。
ただ、今年は少し自分の問題意識に引き付け過ぎました。
講座の前や後に、ご自身で本を買って読んだり調べたりする方々もいらっしゃる、
だから、この方面を概括するようなものを紹介すればよかった、と後から気づきました。

来年度も曹植の文学を取り上げるつもりなので、次の機会には、
吉川幸次郎の「三国志実録 曹氏父子伝」「同 曹植兄弟」を紹介しようと思います。
いずれも『吉川幸次郎全集7』(筑摩書房、1968年)所収です。*

吉川幸次郎がこれらを執筆していた頃と今とを比べると、
私たちの置かれた研究環境がどれほど便利で快適であるかが痛感されます。
この大先学が行論中しばしば渇望される工具書や、佚文をも網羅した文献集成の類が、
今はほとんど誰の手にも届くかたちで公開されているのですから。
だから、私たちは氏の所論を乗り越えていけるはずだし、
おそらく氏もそれを望んでいらっしゃるのではないでしょうか。

また、公開講座のような場においても、
大学者の書いた本を踏襲してのお話ばかりでなく、
至らぬ研究者ががんばって考察した成果もまた歓迎されると感じています。

公開講座においでになったある方がこうおっしゃいました。
新しく何かを知ることが、何よりも生きていくためのエネルギーになるのだ、と。
この言葉に非常に勇気づけられました。

それではまた。

2019年11月6日

*初出は、「曹氏父子伝」が1956年1~12月『世界』、「曹植兄弟」が1958年1~12月『新潮』に全6回で掲載。後に単行本『三国志実録』として、筑摩書房から1962年に出版され、現在も古書店で入手可能なようです。