晋楽所奏「怨詩行」に関する付記

ずいぶん前に取り上げた晋楽所奏「怨詩行」について、ひとつ付記しておきます。

この楽府詩が曹植「七哀詩」をベースにしていることはすでに述べたとおりですが
このように、徒詩を楽府詩にアレンジして宮廷歌謡としたケースは、
『宋書』楽志三を見る限りでは、他に見当たりません。
ここに収録されているのは、もともと楽府詩であったものです。

曹植の作品は、「野田黄雀行・置酒」が「大曲」に取られていますが、
これは、曹植の楽府詩(『文選』巻27では「箜篌引」と題す)の歌辞をほぼ踏襲しています。
他方、「怨詩行」の場合は「七哀詩」の辞句の一部を大きく変えていました。

また、楚調「怨詩行」は『宋書』楽志の中で、平調、清調、瑟調、大曲と続く末尾に付記されており、
しかも、楚調はこの歌辞一篇のみです。

以前、この楽府詩は、曹植に捧げられた鎮魂歌であると同時に、
司馬炎に排斥された司馬攸への追悼歌でもあったのではないかとの考えを述べました。

この推論は、上述のような本歌辞の特殊性から見ても、一定の妥当性を持つように思います。
西晋王朝の他の宮廷歌謡(いわゆる「清商三調」)とは別に、
ある強い思いから新たに作られ(アレンジ)、後からそっと添えられたような印象です。

それではまた。

2019年11月4日