書面語になった曹植の表現
本日、訳注の見直しに難渋していた「上責躬応詔表」に、
やっと一応のひとくぎりを付けました。
その中で、初めて読んだ時にも引っ掛かっていた「冒顔」という語が、
宋代の任広という人物による類書『書叙指南』に採られていることを知りました。
知典古籍(https://www.shidianguji.com/zh/)のおかげです。
この類書は、書面で用いるにふさわしい語を様々な古典の中から拾い上げ、
その古典的な言い回しを、用いる場面ごとに列記するものです。
その巻10の「胸腹誠懇」の項の中に、
「又曰、冒顔以聞」(「曹植」との注記あり)と採録されています。
もっぱら曹植の作品に焦点を当てて読んでいた時は、
この語が後世、書面語として活用されているとは思い至りませんでした。
曹植のこの文章は『文選』巻20所収で、
『文選』は唐代以降、知識人たちの基本図書として定着しますから、
こうして宋代の人の目にも留まったのかもしれません。
宋代には、たとえば白居易の編んだ類書『白氏六帖』も独自の進化を遂げて、
知識人たちの基礎知識を支える便利な本として流布しましたが、*
そうしたことと同源かとも思われる現象です。
曹植がほとんど一気呵成に書き上げたと思われる文章の一部が切り取られ、
(この文章の文体については、こちら等に推論を記しています。)
指南書に乗せられて、素敵な書面を書きたいと欲する人々の手に渡っていった。
ほとんど千年近くの時を隔てたこの現象に、複雑な思いを持ちました。
2026年3月2日
*学術論文のNo.10、11、13、報告・翻訳・書評等のNo.6で論じたことがあります。ただ、武断に過ぎるところが多々あります。