曹植「朔風詩」の背景

こんばんは。
今日も、前日の話を引き継いで少しばかり記します。

曹植の「朔風詩」にいう「君」は、
本詩を詠じている人と、その人が思いを馳せる南方にいる人から、
「秋蘭」や、冬に花を咲かせる南方の「桂樹」を贈られようとしています。
「君」がこちらを顧みてくれないにせよ、我々の誠意を表するための証として、と。

この「君」は、文帝曹丕を指すだろうと昨日述べました。
そして、“南方にいる人”は、黄初四年当時、呉王であった曹彪、
本詩を詠じている人は、曹植その人です。

本詩は表向き、詩を詠ずる人と、彼が遠く思いを馳せている人と、
二人の関係性(骨肉の情)が中心的なテーマになっているように見えます。
ですが、分断された二人の関係性の背後にあるのは、第三者である「君」の存在です。

ただし、詩の中ではそのことについて明言されていません。
過日も述べたように、「君」と、「子」「爾」すなわち“南方にいる人”とは、
ともに香草というディテールを纏っているために紛らわしいのです。

もし、本詩の成立を黄初四年とし、
「君」と“南方にいる人”とを上述のように比定するならば、
この紛らわしさは、敢えて設けられたものであろうと納得されます。
曹植は当時、「君」が我々兄弟の間を引き裂いた、などと言おうものなら、
また監国謁者らに密告され、身に危険を招き寄せかねない状況下にあったからです。

2021年3月16日