曹植の政治思想
少しずつ進めている「曹植作品訳注稿」、
本日より「当欲遊南山行(「欲遊南山行」に当つ)」(05-33)に入りました。
その最初の四句はこうです。
東海広且深 東の海は広くしかも深い。
由卑下百川 自身の低さによって幾多の川を引き入れるからだ。
五岳雖高大 五岳は高く大きくそびえているけれど、
不逆垢与塵 塵芥のごとき卑小なものを拒んだりはしない。
これを見て真っ先に想起したのが、
曹操「対酒・短歌行」(『宋書』楽志21・楽志三、『文選』巻27)の次の句です。
山不厭高 山は土の堆積により高さが増すのを拒まず、
海不厭深 海は水の増加により深さが増すのを拒まない。
周公吐哺 周公は食事も中断して客人を迎えたが、
天下帰心 これでこそ天下の人民はなつくのだ。
こうした表現内容の近似性からは、
曹植が父曹操をどれほど敬愛していたかがうかがわれます。
曹植は、曹操のこのような政治思想を理想としていたのかもしれません。
前掲の曹操「短歌行」の上二句について、
『文選』李善注は、『管子』形勢解の次の一節を注に挙げています。
海不辞水、故能成其大。 海は水を辞せず、故に能く其の大を成す。
山不辞土、故能成其高。 山は土を辞せず、故に能く其の高を成す。
明主不厭人、故能成其衆。 明主は人を厭はず、故に能く其の衆を成す。
士不厭学、故能成其聖。 士は学を厭はず、故に能く其の聖を成す。
黄節『曹子建詩註』は、前掲「当欲遊南山行」の句について、
李善が曹操「短歌行」に注したのと同じ『管子』形勢解を注に挙げています。
もしかしたら黄節は、両者の近さに気づいていたのかもしれません。
2025年9月26日