曹植の造語か(2)
こんばんは。
曹植「上責躬応詔詩表」(『文選』巻20)の訓読を、
今日やっとひととおり終えたのですが、読めていないところが多々あります。
李善も五臣も特に注していないので、普通の言葉かと思っていたら、
これを読み下す段になって、その言葉の意味が像を結ばない、
そのような熟語が少なくないことがひとつ。
それから、言葉の連なりがうねっている感触があって、
文脈が理路整然と辿れないことが、難解さのもうひとつの要因です。
文脈を把握しづらい言葉のうねりは、
おそらく、彼がこの文章を書いた環境に起因するものなのでしょう。
罪を得て、文帝曹丕への謁見がなかなか許されない状況下で、
じっくりと推敲する余裕などなかったと思われます。
諸注釈者が触れていない難解な熟語としては、
たとえば、次の文中に見える「冒顔」がその一例です。*
詞旨浅末、不足采覧、貴露下情、冒顔以聞。
詞旨は浅末にして、采覧せらるるに足らざるも、
下情を露(あらは)さんことを貴(ねが)ひ、顔を冒して以て聞す。
「冒」は、やみくもに突き進むというニュアンスでの「犯す」。
ですが、これに「顔」が続く用例は、現存する文献ではほとんど見当たりません。
「冒」はもともと頭にものをかぶるという語義ですから、
その目的語として、下に「顔」を配すると、
顔を隠して、無謀なことをする、というような意味になるのでしょうか。
李善注にも、五臣注にも言及がないのは、
それが当時としてはありふれた言葉だからではなくて、
個々の漢字の意味を重ねれば理解可能だろう、ということなのかもしれません。
なんとなくわかったつもりでいたところが、
読み下してみて、実は何もわかっていなかったことに気づかされました。
2021年9月8日
*古川末喜さんからご教示をいただき、「冒顔」は「犯顔」の意として、本作品の語釈を改めました。(2021.10.09)