知らなかった語義

『韓非子』説林下に、次のような文章が見えています。

鳥有翢翢者。重首而屈尾、将欲飲於河則必顛、乃銜其羽而飲之。
人之所有飲不足者、不可不索其羽也。

この前半は、次のように読み下せます。

鳥に翢翢なる者有り。
重首にして屈尾、将に河に飲まんと欲すれば則ち必ず顛(たふ)るれば、
乃ち其の羽を銜(ふく)みて之を飲ましむ。

ところが、これに続く文の「所」の意味がどうしても分からず、
その後しばらくの間、立ち止まったままだったのですが、
昨日、『故訓匯纂』を手掛かりに解決しました。

清朝の王引之『経伝釈詞』巻九「所」の項に、
「所、猶若也、或也(所は、猶ほ若なり、或なり)」として、
『尚書』『毛詩』『左伝』『論語』『孟子』の辞句が例示されています。

これにより、「所」を仮定の意味で捉え、
前掲文章の下半分を読み下せば、次のようになります。

人の所(もし)飲みて足らざる有らば、
其の羽を索(もと)めざる可からざるなり。

太田方『韓非子翼毳』(冨山房・漢文大系収載)は、
この部分に次のような頭注を付しています。

翢翢一羽ニシテ河ニ飲マントスレバ必ズ顚仆ス、
故ニ二鳥相依リテ一鳥ガ他鳥ノ羽ヲ銜ミテ顚仆ヲ免レ水ヲ飲ムヲ得シム、
人モ事ヲ為サントシテ勢不可ナルモノ有ルニ遇ハバ、
他ノ己ヲ輔クベキ者ヲ求メザルベカラズ、

「遭ハバ」と未然形に読んでいることから、ここは仮定と捉えている、
と心強く思ったら、この後に「所有ハ有所ノ誤」という語が続いていました。

太田全斎も、よほど読解に困ったのだろうと想像します。

2023年12月21日