若き日の曹氏兄弟

こんばんは。

昨日紹介した逸話からのつながりで、
韓宣という人物をめぐる、曹丕・曹植兄弟のエピソードを思い出しました。
これもまた、魚豢の『魏略』によってのみ伝わる出来事です。
(『三国志』巻23「裴潜伝」裴松之注に引く)

ある雨上がりの日、水たまりができた宮城の門の内で、曹植と韓宣が鉢合わせした。
韓宣は、曹植を避けようにも避けられず、扇で顔を隠して道の端へ寄った。
これに腹を立てた曹植は、韓宣をあれこれ論難しようとするが、韓宣も負けてはいない。
曹植は彼を釈放し、弁の立つ者として曹丕に詳しく語って聞かせた。
後に、韓宣が職務上のことで処罰されようとしていたとき、
たまたま通りかかった文帝曹丕は、周囲にその罪人の名を聞いて思い出し、
「これが子建の言っていた韓宣か」と言って、特別に彼を赦した。

ここに記された曹丕は、少なくとも曹植のことを嫌ってはいないようです。
才気煥発たる弟の言うことに興味深く耳を傾け、よく記憶し、それを尊重しています。

一方、この逸話の中に登場する曹植は、
後半生の彼がまとっているような悲劇性は微塵も感じさせません。
若気の至りで放埓な態度に出る、世間知らずの、どこにでもいるような若者です。
(臨菑侯であった曹植は、この頃二十代半ばです。)
手強い相手を称賛しているところに、育ちのよさを感じます。

人を一面的に見てしまわないように。
人知れず小さな出来事を数多く記した魚豢が、そう示唆してくれているようです。

2020年6月18日