表現の類似と制作年代

複数の作品に、非常によく似た表現が見えている場合、
それらの作品相互の関係性は、どう捉えるのが最も妥当でしょうか。

一方が特に広く認知された作品である場合は、
もう一方は、この人口に膾炙した作品を意識して踏まえたと見るべきでしょう。
中国古典文学に常套的な、いわゆる典故表現はこれに該当します。

漢代詠み人知らずの五言詩である古詩や、
李陵・蘇武の名に仮託された五言詩(いわゆる蘇李詩)は、
後漢末の建安詩人たちの五言詩とその表現が非常によく重なります。
これに拠り、これらを近い時代の産物と見る論がかつては大勢を占めていました。
ですが、実はこの三者は、建安詩が古詩や蘇李詩を踏まえたものである、という関係です。
(さらに言えば、蘇李詩は古詩中の特別な一群の上に成り立っています。)
詳細は、こちらの著書№4をご覧いただければ幸いです。

では、同じ詩人の作の中で、同一句を含んでいる場合はどうなのでしょう。

曹植の「薤露行」「送応氏二首」其二とは、「天地無窮極」という句を共有しています。
短絡的に、だから両詩は同じ頃の作だ、と言えないのは当然ですが、
だからといって、表現の類似が制作年代と全く無関係とも言えないように思います。

おそらく、類似句だけを見つめていたのでは何も出てこないのでしょう。
しばらく考えてみます。

それではまた。

2020年2月18日