訳注稿「贈丁廙」への追記
本日は、曹植「贈丁廙」の、「大国」に対する語釈を追記しました。
今回も青木竜一さんのご指摘によるものです。
「大国」は、魏国を指すと思われますが、
曹操が後漢王朝から魏王の爵位を与えられて成った魏国は、
後漢王朝と併存する、独立性を持つ国家であったと初めて知りました。
曹丕が曹操の後継者として「太子」という名称で呼ばれるようになったことも、
この魏国の成立と連動するものであったと聞きました。
そこで、新たな考察の糸口を与えられたと思ったことがあります。
それは、この直前に見えている句とのつながりです。
「贈丁廙」という詩は、四句ずつひとまとまりを為すと見られますが、
ちょうど中間に位置する次の部分が、これまでどうにもつかめなかったのです。
その原文を、現時点での通釈とともに示せば以下のとおりです。
我豈狎異人 私はどうして関係のない人々に馴れ親しんだりするものか。
朋友与我倶 古なじみの友人たちが私とともにいるのだ。
大国多良材 大国には良き人材が多く現れ、
譬海出明珠 それはさながら海が真珠を生み出すようなものだ。
上の二句については、かつてこちらで言及したことがあり、
その際には、曹植の兄曹丕に対する屈託を示す表現として捉えました。*
けれども、そうすると、これに続く二句とのつながりが見えてきません。
ですが、「大国」が上述のような意味であるとすれば、
自分の身近にいる「朋友」に対して、魏王国の人材登用を称賛し、
そちら側に仕官できるよう励ますという文脈に取れなくもありません。
そして、後半の八句で、丁廙に対して“君子たれ”と告げるわけも理解できます。
この詩は、再考する必要があると思いました。
2023年11月22日
*川合康三編訳『曹操・曹丕・曹植詩文選』(2022年2月)p.303にもこのことを指摘する。