連れ立って飛翔する鳥
こんばんは。
阮籍「詠懐詩」に見える「翺翔」の語、
昨日挙げた2例以外に、ひとりで飛ぶのではない次の詩句があります。
すなわち、『文選』巻23にも収載されている、
「昔日繁華子」に始まる、楚の安陵君と魏の龍陽君という二人の寵臣を詠じた詩に、
「願為双飛鳥、比翼共翺翔(願はくは双飛の鳥と為り、翼を比べて共に翺翔せんことを)」
とあるのがそれです。
この表現は、まず『文選』巻29「古詩十九首」其五にいう、
「願為双鳴鶴、奮翅起高飛(願はくは双鳴鶴と為り、翅を奮ひて起ちて高く飛ばんことを)」
を彷彿とさせますし、
古詩と作風の近い蘇武詩(『文選』巻29、蘇武「詩四首」其二)にも、
「願為双黄鵠、送子倶遠飛(願はくは双黄鵠と為りて、子を送りて倶に遠く飛ばんことを)」
とあったことが想起されます。
また、成立時期は不明ですが、
舞曲歌辞「淮南王篇」(『宋書』巻22・楽志四)にも、
「願化双黄鵠還故郷(願はくは双黄鵠に化して故郷に還らんことを)」と見えています。
こうした流れを汲む表現パターンは、
阮籍よりも前、すでに建安詩に散見します。たとえば、
曹丕「於清河見輓船士新婚別妻」詩(『玉台新詠』巻2)に、*
「願為双黄鵠、比翼戯清池(願はくは双黄鵠と為りて、翼を比べて清池に戯れんことを)」、
同じく曹丕「又清河作」(『玉台新詠』巻2)に、
「願為晨風鳥、双飛翔北林(願はくは晨風の鳥と為りて、双飛して北林に翔けんことを)」、
そして、曹植「送応氏詩二首」其二(04-04-2)にも、
「願為比翼鳥、施翮起高翔(願はくは比翼の鳥と為りて、翮を施べて起ちて高く翔けんことを)」
とあったのでした。
前掲の阮籍「詠懐詩」の詩句は、こうした流れの中から浮かび上がってきたものでしょう。
ただ、そのありふれた言葉にそこはかとない不吉さが漂うように感じるのは、
その連れ立って飛ぼうとする二人が寵臣だからでしょうか。
漢魏詩の常套的表現に、
阮籍が新たな意味を付与する例は少なくありませんが、
この詩に見える連れ立って飛ぶ鳥の表象も、そのひとつと言えるかもしれません。
2021年5月13日
*『藝文類聚』巻29では徐幹の作とする。