過去への飛翔か

曹植の「朔風」詩は、やっぱり難解です。
けれども、五年前には参照できなかった先行研究
川合康三氏編訳『曹操・曹丕・曹植詩文選』に啓発されるところが多く、*
先学との対話から解きほぐされていくものがありそうです。

この詩はその冒頭、「朔風」をよすがに「魏都」を懐かしむと詠じています。
この「魏都」がどこを指すのか、これも解釈の定まらないところですが、
魏王国の都、鄴と捉えることは十分可能だと気づかされました。
川合前掲書p.289―390にこうあります。

冒頭の北・南へ行きたい思いは、洛陽・呉とすれば、朝政・征伐への参加を願うものになるが、鄴都・寿春とすれば、過去の交遊の場を懐かしみ、曹彪を思慕するという私的な思いになる。7・8(句目)の鳥とともに翔て行きたいといのは、思う人のもとへ飛んで行きたいという常套表現なので、ここでは後者の方向で解する。

この中の「過去の交遊の場を懐かしみ」に意表を突かれました。
私は、この詩の作られた当時の北方を、当然のように思い浮かべていたからです。

冒頭四句が過去を懐かしむ表現だとして、
続く四句は現在、南方に身を置いている人への思慕を詠じています。
すると、すぐに飛んで行きたい先には、時間的なずれが生じることになります。
北方は過去、南方は現在、これらを並置して、その両方に思いを寄せているのですから。
(厳密に言えば、飛んで行きたい北方とは、なつかしい思い出の地ですが。)

もう少し考えてみます。
他にも未解明のところが多く残っています。

2026年2月10日

*川合康三編訳『曹操・曹丕・曹植詩文選』(岩波文庫、2022年)