陸機詩の源流

陸機作品には曹植の表現がよく織り込まれています。
そうした例を、これまでにも何度か拾い上げてきましたが、
今日もまたひとつ、そうした例を記します。

陸機「呉王郎中時従梁陳作」(『文選』巻26)にいう
「在昔蒙嘉運(在昔 嘉運を蒙る)」は、
曹植「浮萍篇」(『玉台新詠』巻2)にいう
「在昔蒙恩恵(在昔 恩恵を蒙る)」を織り込んだ表現かもしれません。

とてもありふれた表現のように見えるのですが、
「在昔蒙」の三字が連なる例は、漢魏晋南北朝詩ではこの2例のみです。

『文選』李善注は、陸機の詩における曹植作品の影響を特に指摘してはいません。
文脈や内容の面で、先行する曹植作品を「踏まえている」わけではないので、
指摘がないということは、特段それを欠落とするには当たりません。

この場合の陸機作品における曹植文学の影響は、
いわゆる典故表現(非常に近い時代の作品を踏まえる)ではなく、
ある作家や作品によほど心酔して慣れ親しんだ人が、
自身の創作において、その敬愛する作家の表現を自然に想起して織り込んだ、
といったようなことではなかったでしょうか。

六朝梁の鍾嶸『詩品』上品「陸機」の条にいう、
「其源出於陳思(其の源は陳思より出づ)」との評は、
まことに故あってのことであったかと、深く納得させられました。
鍾嶸のこの評は、陸機詩における曹植の影響を感受してのことでしょう。
その素養のない自分は、疑問点に立ち止まり、調べてやっと、
当初の感覚のたしかさを確認することができます。
感覚はもちろん外れる場合もあります。

2024年6月2日