四種類の『詩経』
中国最古の詩集であり、儒教の経典でもある『詩経』は、
かつて四種類のテキストが行われていました。
魯詩、斉詩、韓詩(一昨日の注で触れた三家詩)に加えて、
現在唯一伝存している毛詩です。*1
テキストにより、解釈を異にしている部分もあります。
(王先謙『詩三家義集疏』に詳しい。)
漢代詠み人知らずの五言詩、古詩の原初的作品群の作者たちが学んだのは韓詩、*2
以前触れた、後漢順帝の皇后となった梁妠が学んだのも韓詩、
一昨日紹介した陳喬樅の説によると、曹丕「又清河作」詩が拠ったのは斉詩、
また、陸機「擬行行重行行」が踏まえたのは毛詩であろうことも先に述べたとおりです。
他方、伊藤正文氏は、曹植が学んだのは韓詩だと推定しています。*3
『毛詩正義』の登場により、毛伝・鄭箋の流れが『詩経』解釈の決定版となるまでは、
漢魏晋南北朝時代、斉・魯・韓・毛の四家が並び行われていました。
曹植たちの作品を読む場合、『毛詩』に拠ると意味が通じないこともあり得ます。
このことに注意しておきたく思います。
それではまた。
2020年3月4日
*1 狩野直喜『漢文研究法』(みすず書房、1979年)p.105―115に、詳しくかつわかりやすい解説がある。
*2 こちらの学術論文№21、及び著書№4の第二章第二節を参照されたい。
*3 伊藤正文『曹植(中国詩人選集3)』(岩波書店、1958年)の解説(p.22)を参照。