「清商三調」における荀勗の編集意識

昨日の続きです。
『宋書』楽志三所収の「清商三調」が、
西晋の荀勗によって編成された歌曲群だということは、
たとえば、その瑟調曲の諸歌辞から端的に推し測ることができます。

というのは、ここに取られた八篇のすべてが「善哉行」だからです。
ここに引かれた魏の武帝・文帝・明帝の歌辞、及び詠み人知らずの歌辞が、
すべて同じメロディ「善哉行」で歌われるということです。

王僧虔による「大明三年宴楽技録」を見る限り、
瑟調曲には、南朝において多くの楽府題(メロディ)が現存していたようですが、
『宋書』楽志三に記された晋楽所奏「清商三調」の瑟調曲歌辞は、
そのごく一部を取り上げているに過ぎないのです。

王僧虔「技録」がどこまで魏晋の実態を伝えているかは未詳ですが、
それでも、このような作品採録は、どう見ても偏っていると言わざるを得ません。

また、平調曲や清調曲における楽府題の並べ方も目を引きます。
今、楽府題のみを取り出して列記してみると、
平調曲は、「短歌行」「燕歌行」「短歌行」「燕歌行」「短歌行」、
清調曲は、「秋胡行」「苦寒行」「秋胡行」「董桃行」「塘上行」「苦寒行」です。
楽府題(メロディ)を中核として諸歌辞を整然と並べるのではなく、
複数の歌辞を連ねて、そこからある文脈を引き出そうとしているかのようです。

このように、『宋書』楽志三の「清商三調」は、
その三調のいずれにも、荀勗の編集意識がはたらいているように看取されます。
そして、それらはすべて「荀氏録」に記されたところに包摂されます。

2023年5月6日