厳島八景と南京八景
以前(2021.07.03)、言及したことのある厳島八景ですが、
その景目が、南京(なんきょう)八景とよく似通っていることに気づかされました。
南京八景とは、奈良の八つの景物を選定して、漢詩や和歌に詠じたもので、
遅くとも永徳二年(1382)には成立していたとされています。*1
他方、厳島八景は、安芸の宮島の八景を選りすぐったもので、
事実上、正徳二年(1712)、石清水八幡宮の神職、柏村直條によって選定されました。*2
柏村直條には、かつて男山八景(八幡八景)を選定したことがあり、
それで、宮島の光明院の恕信から、厳島八景のことを依頼されたのでした。
そんなわけで、厳島八景はたしかに、
男山八景と、「蛍」「桜」といった共通項を持っています。
けれども、それ以上に似通っているのが、奈良を詠じた南京八景なのです。
その景目を示せばこちらのとおりです。
もしかしたら、柏村直條は、
男山八景を選定する際、南京八景を念頭においていて、
厳島八景の選定時にも、再び南京八景を想起したのではないかと想像しました。
2023年3月15日
*1 堀川貴司『瀟湘八景 詩歌と絵画に見る日本化の様相』(臨川書店、2002年)p.38―41、安宅望「奈良八景考―成立時期の特定と選定の視点について―」(『立命館文学』676号、2021年)を参照。
2 柳川順子「悦峰の「厳島八景詩序」と柏村直條」(『宮島学センター年報』第3・4号、2013年)、「「厳島八景」文芸と柏村直條」(県立広島大学宮島学センター編『宮島学』渓水社、2014年)を参照されたい。