古詩と建安詩
先日、訳注稿を公開した曹植の「雑詩」は、
解題にも記したとおり、漢代の古詩・古楽府を随所に踏まえています。
こうした特徴から、従来しばしば、
建安詩と古詩とは同時代の産物と見られてきました。
けれども、この通説は必ずしも絶対的なものではありません。
そのことを、ほかならぬ、このたび訳注を施した詩を例に説明します。
(詩の本文や訳注は、こちらをご覧ください。)
一句目「悠悠遠行客」は、
『文選』巻29「古詩十九首」其三にいう「人生天地間、忽如遠行客」を踏まえます。
五句目「浮雲翳日光」は、
同上「古詩十九首」其一にいう「浮雲蔽白日、遊子不顧反」を思わせます。
六句目「悲風動地起」は、
同上「古詩十九首」其十二に、「迴風動地起」という類似句が見えています。
そして、以上三首の古詩は、相互に表現上明らかな影響関係が認められません。
このことは何を意味するでしょうか。
それは、前掲三首がすでに成立している時点で、
それらを組み合わせて曹植「雑詩」が成立したということです。
曹植「雑詩」から、複数の古詩が派生したとは考えにくいし、
(曹植のこの詩はそこまで古典的な作品だとは言えません。)
曹植詩と三首の古詩とが同時代の産物とも考えにくい。
(作品相互の影響関係が、上述のとおり不均衡ですから。)
そうではなくて、かなりの数の古詩が出そろった段階に位置する曹植が、
それらの中から自由に取捨選択し、組み合わせて本詩が成ったと見る方が自然です。
この基本的な考え方は、
拙著『漢代五言詩歌史の研究』(創文社、2013年)の中で用いています。
2023年3月7日