04-23-1 雑詩 二首(1)

04-23-1 雑詩 二首(1)

【解題】
遠方を旅する人の寄る辺なさを詠ずる。『藝文類聚』巻二十七・人部の「行旅」に収載。語釈に示すとおり、漢代の古詩・古楽府を踏まえる表現が目立つ。

悠悠遠行客  悠悠たる遠行の客、
去家千餘里  家を去ること千餘里。
出亦無所之  出でても亦た之(ゆ)く所無く、
入亦無所止  入りても亦た止まる所無し。
浮雲翳日光  浮雲 日光を翳(おほ)ひ、
悲風動地起  悲風 地を動かして起こる。

【通釈】
はるばると遠方を旅する人は、家を離れて千里あまり。
宿を出たとて行く当てもなく、入ったとて骨を休める場所もない。
浮雲は日の光をさえぎり、悲しげに吹きすさぶ風が地を揺り動かして巻き起こる。

【語釈】
○悠悠遠行客 「悠悠」は、はるかに行くさま。『毛詩』小雅「黍苗」に「悠悠南行、召伯労之(悠悠たる南行、召伯 之を労ふ)」、毛伝に「悠悠、行貌(悠悠とは、行く貌なり)」と。「遠行客」は、遠方をさすらう人。『文選』巻二十九「古詩十九首」其三に、「人生天地間、忽如遠行客((人 天地の間に生くること、忽として遠行の客の如し)」と。
○去家千餘里 同一句が、蘇武「答詩(童童孤生柳)」(『古文苑』巻八)に「連翩遊客子、于冬服涼衣。去家千里餘、一身常渇飢(連翩たる遊客子、冬に涼衣を服(き)る。家を去ること千里餘り、一身 常に渇飢す)」と見えている。ただし、この蘇武の詩は成立時期が不明。
○出亦無所之、入亦無所止 類似表現が、『太平御覧』巻二十五に引く「古楽府歌詩」に、「秋風蕭蕭愁殺人。出亦愁、入亦愁(秋風は蕭蕭として人を愁殺す。出でては亦た愁へ、入りては亦た愁ふ)」と見えている。
○浮雲翳日光 類似表現として、「古詩十九首」其一に「浮雲蔽白日、遊子不顧反(浮雲は白日を蔽し、遊子は顧反せず)」と。浮雲が太陽をさえぎるというイメージは、漢代、たとえば東方朔「七諌・沈江」(『楚辞章句』巻十三)に「浮雲陳而蔽晦兮使日月乎無光、忠臣貞而欲諌兮讒諛毀而在旁(浮雲陳なりて蔽晦し、日月をして光無からしむること、忠臣は貞にして諌めんと欲するも讒諛の毀ちて旁に在るがごとし)」とあるように、しばしば正しき者が邪悪な者にさえぎられることの暗喩として用いられた。
○悲風動地起 類似表現として、「古詩十九首」其十二に「迴風動地起、秋草萋已緑(迴風 地を動かして起こり、秋草 萋として已て緑なり)」と。