押韻から捉える「責躬詩」

本日、「責躬詩」の訳注稿に、押韻を付記しました。
(解題、訓み下し、語釈、通釈の修正はまだこれからです。)

押韻状況を調べていく作業の中で気づかされたのは、
本詩がかなりきっちりと考え抜かれた構成を取っていることです。

ひとつのまとまりを為す句には、同じ響きを持つ脚韻が用いられていますが、
それが、平声と仄声とを頻繁に交替させながら、換韻していくのです。

伸びやかな平声と、屈曲する仄声(上声・去声・入声)とが、
言葉の持つ意味と絡み合いながら、うねりを形作っていくような印象を持ちました。

今、押韻ごとに通釈を区切り、行頭に平仄を記して提示します。
(○は平声、●は仄声、』は換韻するところを示しています。)

○ああ、うるわしき父なる高祖、それはすなわち武皇帝。
○天より命を受けて、天下四方を安らかに平定された。
○漢王朝の朱色の旗が通過したところ、中国全土がなびいてへりくだった。
○奥深い道に基づく教化があまねく行きわたり、最も遠い異域の人々も帰順してきた。』
○魏王国は、商や周の王朝をも凌ぎ、その足跡は堯に並ぶ。
○天の篤い祝福を受けて我が皇が誕生し、父子二代にわたって聡明でいらっしゃる。
○武の方面では厳粛であり、文の方面では民たちに和平がもたらされた。
○かくして、魏は漢王朝から禅譲を受け、万国に君臨することとなった。』
●万の国々が十分に教化されると、古くからの典範に則って、
●広く骨肉の弟たちに命じて、魏王朝の藩としての役割を担うよう指示された。』
●皇帝陛下はおっしゃった、「そなた臨淄侯よ、この青州の土地に君主たれ」と。
●海濱一帯を保有することとなったのは、周王朝が周公旦の長子を魯に封じたのに等しい。
●諸侯に下賜された車や衣服は輝きわたり、各地位を示す旗印は整然と並んでいる。
●ずらりと居並んだ、才徳兼備の人士たちは、我が片腕として輔佐に当たるのだ。』
○ああ、わたくしめは、お上に目をかけられているのをよいことに驕り高ぶり、
○その振る舞いは、どうかすると、世間の掟に抵触し、国の規範を乱した。』
○王朝の籬として防備の任に当たるべきなのに、先人の規範を台無しにしてしまい、
○我が皇の使者に傲慢な態度を取り、我が朝廷の規律を犯した。』
●国家には典範たる刑法があり、わが封土は削られ、わが爵位は落とされることとなった。
●今これから獄吏に引き渡され、大罪を犯した自分が指導されることとなったとき。』
●聡明なる天子は、身内の者に手厚く対処しようと思われた。
●わたくしを処罰して、その身を朝廷や市場に晒すには忍びなかったのである。』
○天子はかの司法官の意向に背いて、わたくしめを哀れんでくださった。
○そして、封土を兗州の町(鄄城)に改め、黄河のほとりに赴かせることとなった。
○だが、輔佐してくれる大臣も置かれず、君主はいても臣下はいない。
○荒んだ無軌道きわまりない過ちを犯しても、誰がわが身を矯め直してくれようか。』
○ぽつんとひとりの御者を連れて、かの冀方(魏の都・洛陽)へと赴いた。
○ああ、わたくしめは、かくしてこの禍に遭遇したのである。』
●だが、明々と輝ける徳を有する天子、その恩沢は万物に対して遺漏がない。
●わたくしに黒い冠冕をかぶらせ、わたくしの腰に朱色の組み紐を佩びさせた。』
○光り輝く大使がやってきて、わたくしに栄華が届けられた。
○割り符を割いて封土を授与し、これに王の爵位が加えられたのである。』
●仰いでは金印を授けられた諸侯に並び、伏しては聖皇から下された任命書を手にする。
●皇帝からの恩沢は身に余るほど盛大で、謹んで承りつつ畏れに打ち震える思いだった。』
○ああ、わたくしめには、かたくなで凶悪な性質がまとわりついている。
○死んでは陵墓に眠る高祖に顔向けできず、生きては宮廷にいます陛下に恥じ入るばかりだ。』
●陛下の徳に敢えて傲慢な態度を取るのではなく、ただひたすらその御恩にすがりたいのだ。
●霊妙なる威力が改めて加えられるならば、十分に一生を終えることができよう。』
○天の徳は果てしなく、それに報いようにも、人の命は予測ができない。
○躓いて倒れ、黄泉の国まで罪を抱えていくことになるのではないかと、いつも心配だ。』
●できることならば、出兵して矢や石を身に受けてでも、魏の旗を東方の太山に打ち立てたい。
●どうか、ほんの少しでも手柄を上げて、ささやかな功績により自らの罪を贖わせてほしい。』
●身を危険にさらして命を投げ出し、身のほどをわきまえて落ち度のないよう勉めよう。
●喜んで長江や湘水のほとりに赴き、戈を呉越の地に振り回す所存だ。』
○天子がその胸襟を開いてくださったおかげで、都にてお会いできることとなった。
○ご尊顔を拝する機会を待ちわびて、喉が渇き空腹に堪えかねんばかりの気持ちでいる。
○心の底からお慕いし、胸の内は悲痛でいっぱいだ。
○天は高くとも低き存在の声に耳を傾ける。陛下よ、どうかこの微賤な者に光のお恵みを。』

封土に赴くよう命ぜられたことを詠ずる部分は仄声で、これはよく理解できます。
他方、赴いた先(臨淄)で放埓な言動を弄したことをいう部分は平声です。
これが罪に問われたのであるにも拘わらず、のびのびと平声なのです。
それぞれの句を、平仄それぞれの醸し出す気分で読んでいくと、
曹植の本音のようなものが漏れ出てくるようです。

2026年3月3日