蘇李詩から眺める古詩
こんばんは。
李陵・蘇武の名に仮託された五言詩群、いわゆる蘇李詩は、
建安詩との間に深い影響関係を持っています。
一方、これもまたその類似性がよく指摘される古詩・古楽府との間には、
意外なことに、それほど深い交わりは認められません。
明らかな影響関係が指摘できるのは、次の2件の事例くらいです。
(以下に示す作品は、いずれも『文選』巻29所収)
李陵「与蘇武三首」其一にいう「風波一失所、各在天一隅。」
蘇武「詩四首」其四にいう「良友遠離別、各在天一方。」と、
古詩「行行重行行」にいう「相去万餘里、各在天一涯。」
蘇武詩(二)にいう「泠泠一何悲」「慷慨有餘哀」「願為双黄鵠」と、
古詩「西北有高楼」にいう「音響一何悲」「慷慨有餘哀」「願為双鳴鶴」
他方、古詩の中でも、次のような作品は、
蘇李詩との間に類似関係を認めることができません。
「渉江采芙蓉」(「古詩十九首」其六)、「庭中有奇樹」(同其九)、
「迢迢牽牛星」(同其十)、「青青河畔草」(同其二)、
「蘭若生春陽」(『玉台新詠』巻1に枚乗「雑詩九首」其六として収載)*
これら蘇李詩と関わりあわない諸作品は、いずれも、
古詩の中でも特別な一群(仮称:第一古詩群)に属するものばかりです。
他方、前掲の「行行重行行」「西北有高楼」は、
第一古詩群の中でも、比較的後発的に生まれたと見られるものです。
このように、蘇李詩という作品群との関わり方という視点を新たに設けると、
第一古詩群の成り立ちが別角度から明らかになるかもしれません。
2021年10月15日
*以上のことは、かつてこちらの学術論文№28でも指摘しています。