04-05-2 雑詩 六首(2)

04-05-2 雑詩 六首 其二  雑詩 六首 其の二

【解題】
根を離れ、風に吹かれて転がってゆく蓬に、故郷を離れ、従軍生活を余儀なくされる人の苦しみを重ねて詠ずる。内容、表現ともに、「吁嗟篇」(05-25)との間に多くの類似点を持つ。「雑詩六首」其一(04-05-1の解題も併せて参照されたい。

転蓬離本根  転蓬 本根を離れ、
飄颻随長風  飄颻として長風に随ふ。
何意迴飈挙  何ぞ意(おも)はん 迴飈挙がり、
吹我入雲中  我を吹きて雲中に入らしめんとは。
高高上無極  高高として上ること極まり無し、
天路安可窮  天路 安くんぞ窮む可けんや。
類此遊客子  類す 此の遊客子の、
捐躯遠従戎  躯を捐(す)てて遠く戎に従ふに。
毛褐不掩形  毛褐 形を掩はず、
薇藿常不充  薇藿 常に充たさず。
去去莫復道  去り去りて復た道(い)ふこと莫(な)かれ、
沈憂令人老  沈憂 人をして老いしむ。

【通釈】
転がってゆく蓬は根を離れ、ひらひらとひるがえりつつ、長く吹きわたる風に従う。思いがけないことにつむじ風が起こって、私を雲の中に吹き入れた。高々と極まるところなく舞い上がり、天への道に終着点などどこにあろう。その蓬の有様は、このさすらい人が、身を投げ出して遠く従軍するのに似ている。毛皮や粗布の衣は穴だらけで肉体を覆い尽くせず、ノエンドウや豆の葉ではいつも空腹を満たせない。ああもうこのことは二度と口にするまい。沈鬱な憂いは人を老け込ませてしまう。

【語釈】
○転蓬離本根 「転蓬」は、風に吹かれて転がってゆく蓬。『説苑』敬愼に、祖国を捨てて斉に奔った魯の哀侯が自らの境遇を喩えて、「是猶秋蓬悪於根本而美於枝葉、秋風一起、根且抜矣(是れ猶ほ秋蓬の根本を悪くして枝葉を美しくし、秋風一たび起こらば、根は且(まさ)に抜けんとするがごとし)」と。「吁嗟篇」(05-25)でも「長く本根を去りて逝く」「転蓬」が詠じられている。
○飄颻 ひらひらと風にひるがえる。畳韻語。
○何意迴飆挙、吹我入雲中 「迴飆」は、巻きあがる風。この二句は、「吁嗟篇」にいう「卒遇回風起、吹我入雲間(卒に回風の起こるに遇ひ、我を吹きて雲間に入らしむ)」に類似する。
○高高上無極 類似する表現が、李善注に引く『呂氏春秋』に「風乎其高無極也(風や其の高きこと極まり無きなり)」と見えている。
○天路安可窮 類似する発想が、李善注に引く仲長統『昌言』に「蕩蕩乎若昇天路、而不知其所登(蕩蕩乎として天路に昇るが若きも、其の登る所を知らず)」と見えている。
○毛褐不掩形、薇藿常不充 「毛褐」は、毛皮や粗布で作った粗末な衣。『淮南子』精神訓に「文繍狐白、人之所好也、而堯布衣揜形、鹿裘御寒(文繍狐白は、人の好む所なれど、堯は布衣もて形を揜ひ、鹿裘もて寒さを御ぐ)」と。「薇藿」は、のえんどうと豆の葉。粗末な食事をいう。二句は、『列女伝』賢明伝(魯黔婁妻)に、黔婁の弔問に訪れた曾子がその妻に言った「先生在時、食不充口、衣不蓋形(先生は在りし時、食は口を充たさず、衣は形を蓋はず)」、また『文子(通玄真経)』守平篇にいう「聖人食足以充虚接気、衣足以蓋形禦寒(聖人 食は足以て虚を充たして気を接し、衣は足以て形を蓋ひて寒さを禦ぐ)」を想起させる。
○去去莫復道、沈憂令人老 「沈憂」は深い憂愁。宋玉「笛賦」(『古文苑』巻二)に、「武毅発、沈憂結(武毅発して、沈憂結ぶ)」と。二句に類似する表現として、『文選』巻二十九「古詩十九首」其一に、「思君令人老、歳月忽已晩。棄捐勿復道、努力加餐飯(君を思へば人をして老いしむ、歳月は忽として已に晩し。棄捐して復た道ふこと勿かれ、努力して餐飯を加へん)」と。