05-04 闘鶏

05-04 闘鶏  闘鶏

【解題】
「闘鶏」は、鶏を闘わせて勝敗を競う遊び。宴席を盛り上げるものとして行われた闘鶏を観戦して詠じた作品。『藝文類聚』巻九十一、『楽府詩集』巻六十四、『詩紀』巻十三所収。劉楨(?―二一七)、応瑒(応瑒(?―二一七)に同題目の詩がある。応瑒は、平原侯曹植の庶子((『三国志』魏書巻二十一・王粲伝)、劉楨も同じ職を務めたことがある(『三国志』魏書巻十二・邢顒伝)。曹植が平原侯であったのは、建安十六年(二一一)から同十九年(二一四)。そうした時期の、三人の競作か。

遊目極妙伎  目を遊ばせて妙伎を極め、
清聴厭宮商  聴を清めて宮商に厭(あ)く。
主人寂無為  主人 寂として為す無く、
衆賓進楽方  衆賓 楽方を進む。
長筵坐戯客  長筵 戯客坐し、
闘鶏観間房  闘鶏 間房に観る。
群雄正翕赫  群雄 正に翕赫たり、
双翹自飛揚  双翹 自ら飛揚す。
揮羽邀清風  羽を揮ひて清風を邀(むか)へ、
悍目発朱光  目を悍(いか)らせて朱光を発す。
觜落軽毛散  觜は落ち 軽毛は散じ、
厳距往往傷  厳距は往往にして傷つく。
長鳴入青雲  長鳴して青雲に入り、
扇翼独翺翔  翼を扇ぎて独り翺翔す。
願蒙狸膏助  願はくは狸膏の助けを蒙りて、
長得擅此場  長(つね)に此の場を擅(ほしいまま)にするを得んことを。

【通釈】
目を遠くへ遊ばせて、舞踊の妙技を眺め尽くし、耳を澄ませて、飽きるほどに音楽を聴き尽くした。主人は、ひっそりとした心持ちで何もすることが無く、そこで賓客たちは楽しみの方法を進言した。むしろを連ねた宴席に、楽しみに興ずる客人たちが居並んで、ゆったりとした座敷から、闘鶏を観戦する。群なす雄鶏たちは、今まさに勢いこんで相手を威嚇し、一対の尾羽は、自ずから空を舞う。羽を振るって清らかな風を迎え入れ、いきり立って剥きだした目は赤い光を発している。嘴は欠け落ち、軽やかな羽毛は散り散りに舞い飛んで、ごつごつと角張った蹴爪はしばしば傷つく。戦って勝利した鳥の魂は、長く鳴き声を上げて青雲に入り、翼で風を起こしてひとり空高く飛び回った。できることならば山猫の膏の助けを借りて、いつもこの闘鶏場で一番の勝者でいたいものだ。

【語釈】
○遊目 視線を遠くへ振り向けて自由に遊ばせる。「遊観賦」にも「静閑居而無事、将遊目以自娯(静かに閑居して事無し、将に目を遊ばせて以て自ら娯しまんとす)と。
○極妙伎 「妙伎」は、すばらしい舞踊。「極」は、それを心ゆくまで眺めて堪能すること。
○厭宮商 「宮商」は、中国の伝統的音階の五音、宮・商・角・徴・羽の中の二音。敷衍して広く音楽を指す。「厭」は、それを飽きるほど聴くこと。
○楽方 娯楽の方法。
○長筵坐戯客 「長筵」は、むしろを連ねた長大な宴席。「名都篇」(05-09)にも「鳴儔嘯匹侶、列坐竟長筵(儔に鳴じ 匹侶に嘯き、坐を列ねて長筵に竟る)」と。
○観間房 ゆったりとした部屋で観戦する。『藝文類聚』『詩紀』は「間観房」に作る。これだと「間」が「観」にかかる副詞となる。今は『楽府詩集』に従い、底本のままとする。
○翕赫 勢い盛んなさま。双声語。、
○翹 鳥の尾の長い羽。劉楨「闘鶏詩」にも「長翹驚風起(長翹 驚風に起く」と。『詩紀』は「翅」に作る。
○邀清風 『藝文類聚』は「激流風」に、『詩紀』は「激清風」に作る。今は『楽府詩集』に従い、底本のままとする。
○悍目 目を怒らせて眼球をむき出しにする。
○厳距 いかめしく角張った蹴爪。
○往往 いつも。しばしば。
○長鳴入青雲 「長鳴」は、闘鶏の勝者の鳴き声をいう。『太平御覧』巻九一八に引く『尸子』に「戦如闘鶏、勝者先鳴(戦ふこと闘鶏の如く、勝者先づ鳴く)」、『春秋左氏伝』襄公二十一年、斉の荘公に州綽が述べた「平陰之役、先二子鳴(平陰の役、二子に先んじて鳴く)」に対する杜預注に「十八年晋伐斉及平陰。州綽獲殖綽・郭最。故自比於鶏闘勝而先鳴(十八年 晋は斉を伐ち平陰に及ぶ。州綽は殖綽・郭最を獲ふ。故に自ら鶏の闘ひて勝ちて先に鳴くに比す)」と。「青雲」は、青く高い空。類似句として、王粲の詩(『藝文類聚』巻九十)に「哀鳴 青雲に入る」、「雑詩六首」其三(04-05-3)に「悲嘯入青雲(悲嘯 青雲に入る)」と。
○翺翔 空高く飛び回る。「翺」は、羽を上下に動かして飛ぶこと、「翔」は、羽を張って滑空することをいう。
○狸膏助 野生の猫を恐れる鶏の習性を利用して、その膏を鶏の頭に塗り、対戦相手を退散させること。『藝文類聚』巻九十一に引く『荘子』に、闘鶏場の主役級の鶏について、「相者視之、則非良鶏也。然而数以勝人者、以狸膏塗其頭(相る者 之を視れば、則ち良鶏に非ざるなり。然れども数以て人に勝つは、狸膏を以て其の頭に塗ればなり)」、司馬彪の注に「鶏畏狸也(鶏は狸を畏るるなり)」と。
○長得擅此場 「長」は、常に。「擅此場」は、この場を独り占めにする。一番の勝者となる。張衡「東京賦」(『文選』巻三)に「秦政利觜長距、終得擅場(秦政は利觜長距もて、終に場を擅(ほしいまま)にするを得たり)」と。