05-05-1 升天行 二首 其一
05-05-1 升天行 二首 其一 升天行 二首 其の一
【解題】
天上に昇り、仙界の蓬莱山で目にした情景を詠じた楽府詩二首の其の一。『藝文類聚』巻四十二、『楽府詩集』巻六十三、『詩紀』巻十三所収。『文苑英華』巻一九三では、本詩を劉孝威の作として収録し、「類聚作曹植(類聚は曹植に作る)」と注する。また、『文選』巻十二、木華「海賦」の李善注は、曹植「苦寒行」として第一・二句を引く。
乗蹻追術士 蹻に乗りて術士を追ひ、
遠之蓬莱山 遠く蓬莱山に之(ゆ)く。
霊液飛素波 霊液 素波を飛ばし、
蘭桂上参天 蘭桂 上りて天に参(まじ)はる。
玄豹遊其下 玄豹 其の下に遊び、
翔鵾戯其巓 翔鵾 其の巓に戯る。
乗風忽登挙 風に乗りて忽ち登挙し、
彷彿見衆仙 彷彿として衆仙を見るがごとし。
【通釈】
軽やかに飛翔して方術の士を追いかけ、遠く蓬莱山を目指してゆく。仙界の霊験あらたかな水は白い波しぶきを飛ばし、香しい蘭や桂は上方へ伸びて天と交わっている。その麓には黒豹が遊び、その頂には天がける鶤鶏が戯れる。風に乗ってふわりと天上界へ昇り、あたかも大勢の仙人を目にしたような心地だ。
【語釈】
○乗蹻 仙術によって軽やかに飛ぶ。「蹻」は、方士の履物らしい。時代は少し下るが、西晋の木華「海賦」(『文選』巻十二)に「不汎陽侯、乗蹻絶往(陽侯のなみに汎ばず、蹻に乗りて絶(わた)り往く)」、葛洪『抱朴子』雑応篇に「若能乗蹻者、可以周流天下、不拘山河(若し能く蹻に乗らば、以て天下を周流し、山河に拘らざる可し)」と。「桂之樹行」(05-31)にも「乗蹻万里之外(万里の外に乗蹻す)」と見えている。
○術士 方術を操る人。方士、道士に同じ。
○蓬莱山 渤海の中にあるという神仙の山。『山海経』海内北経、『列子』湯問篇、『史記』巻二十八・封禅書などに記述が見える。
○霊液飛素波 「霊液」は、仙界に生ずる霊水。『文選』巻二十一、郭璞「游仙詩七首」其七に「円丘有奇草、鍾山出霊液(円丘には奇草有り、鍾山は霊液を出だす」とあり、その李善注に、曹植「苦寒行」と題して「霊液飛波、蘭桂参天(霊液 波を飛ばし、蘭桂 天に参はる)」と。
○蘭桂上参天 「蘭桂」は、蘭と桂。ともに香りの高い植物。両種が揃って見える例として、たとえば『楚辞』九歌「湘君」に「桂櫂兮蘭枻(桂の櫂に蘭の枻)」、同「湘夫人」に「桂棟兮蘭橑(桂の棟に蘭の橑)」と。「参天」は、高く聳えて天にまで至る。たとえば、『論衡』説日篇に「太山之高、参天入雲(太山の高きは、天に参(まじ)はりて雲に入る)」と。一句に類似する句として、「送応氏二首」其一(04-04-1)に「荊棘上参天(荊棘 上りて天に参(まじ)はる)」と。
○玄豹 北方に棲む黒豹。『山海経』海内経に「北海之内、有山、名曰幽都之山、黒水出焉。其上有玄鳥、玄蛇、玄豹、玄虎、玄狐蓬尾(北海の内に、山有り、名づけて幽都の山と曰ひ、黒水 焉に出づ。其の上に玄鳥、玄蛇、玄豹、玄虎、玄狐の蓬尾なる有り」と。
○翔鵾 「鵾」は、鶤字の別体。鶤鶏をいう。鶤鶏の語釈には、大きな鳥、鳳凰の別名、鴻鵠の類とするなど諸説ある。『文選』巻二、張衡「西京賦」に「翔鶤仰而不逮、況青鳥与黄雀(翔鶤すら仰ぎても逮ばず、況んや青鳥と黄雀とをや)」、薛綜注に「鶤、大鳥」「翔、高飛也」と。
○登挙 高く舞い上がる。他にあまり用例が見当たらない語。
○彷彿 ぼんやりと霞んで見えるさま。双声語。