04-01 公宴
■04-01 公宴 公宴
【解題】
「公宴」とは、公卿の催す宴席で臣下たちが奉る詩。『文選』巻20に「公讌詩」として収録。「讌」は「宴」に同じ。兄の曹丕が主催する宴席に侍り、王粲、劉楨、応瑒らとともに競作された(いずれも『文選』同巻に収載)と見なし得る。川合康三他『文選詩篇(一)』(岩波文庫、2018年)p.155を参照。曹丕の「芙蓉池作」(『文選』巻22)も同じ機会に作られたと推定されている。黄節『曹子建詩註』巻1を参照。
公子敬愛客 公子 客を敬愛し
終宴不知疲 宴を終ふるまで疲れを知らず
清夜遊西園 清夜 西園に遊び
飛蓋相追随 蓋を飛ばして相追随す
明月澄清景 明月 清景を澄ませ
列宿正参差 列宿 正に参差たり
秋蘭被長坂 秋蘭 長坂を被ひ
朱華冒緑池 朱華 緑池を冒ふ
潜魚躍清波 潜魚 清波に躍り
好鳥鳴高枝 好鳥 高枝に鳴く
神飆接丹轂 神飆 丹轂に接し
軽輦随風移 軽輦 風に随ひて移る
飄颻放志意 飄颻 志意を放にし
千秋長若斯 千秋 長(とこしへ)に斯(か)くの若(ごと)くあれ
【押韻】疲・随・差・池・枝・移・斯(上平声5支韻)。
【通釈】
公子は客人たちを大切にもてなし、宴の終わるまで疲れを知らない。清らかな夜、西の園に遊び、車を飛ばして公子のあとを追いかける。明るい月は清らかな光を澄みわたらせ、おりしも天空一面に散り敷いた星座が瞬いている。秋蘭の青青とした葉はなだらかに続く坂に生い茂り、深紅の蓮の花は緑の池一面に咲いている。水底に潜んでいた魚は清らかな波間に躍り上がり、愛らしい鳥は高い枝の上でさえずっている。ふと巻き起こった疾風が丹塗りの轂に触れ、軽快な手車は風に吹かれるがままに移動する。ひらりと軽やかに思いを解き放とう。願わくは永遠にこの幸福が続かんことを。
【語釈】
○公子敬愛客・終宴不知疲 「公子」は、諸侯の子。兄の曹丕を指す。類似句として、『文選』巻20、応瑒「侍五官中郎将建章台集詩」に「公子敬愛客、楽飲不知疲(公子 客を敬愛し、楽飲して疲るるを知らず)」と。
○清夜游西園・飛蓋相追随 「西園」は、鄴の銅爵園をいうか。『文選』巻6、左思「魏都賦」にいう「右則疎圃曲池下畹高堂」の張載注に、「文昌殿西有銅爵園、園中有魚池堂皇(文昌殿の西に銅爵園有り、園中に魚池堂皇有り)」と。「蓋」は、車の上に立てる大きな傘。ここでは車全体を指していう。梁・庾肩吾「奉和春夜応令詩」(『文苑英華』巻179)にいう「詎仮西園讌、無労飛蓋遊(詎ぞ西園の讌に仮りん、飛蓋の遊びを労する無し)」は、本詩を意識して「西園」「飛蓋」を対で用いたと見られる。
○明月澄清景 「澄」は、澄んだ光を行きわたらせることをいう。「景」は、光。
○列宿 連なる星座。王褒「九懐・通路」(『楚辞章句』巻15)に「宣遊兮列宿、順極兮彷徉(列宿に宣遊し、極に順ひて彷徉す)」、その王逸注に「徧歴六合、視衆星也(徧く六合を歴て、衆星を視るなり)」「周繞北辰、観天庭也(北辰を周繞して、天庭を観るなり)」と。
○参差 不揃いなさま。双声語。ここでは、天空一面に散り敷いた星が、各々ちかちかと瞬くさまをいう。
○秋蘭 秋に花を咲かせるキク科の多年草。ふじばかま。『楚辞』九歌「少司命」に、「秋蘭兮青青、緑葉兮紫茎(秋蘭は青青として、緑葉と紫茎とあり)」と。
○朱華冒緑池 「朱華」は、深紅の蓮の花。「冒」は、覆いつくす。
○神飆接丹轂 「神飆」は、この世のものならず巻き起こる疾風。「丹轂」は、朱塗りの豪華な車。揚雄「解嘲」(『文選』巻45)に、「客徒朱丹吾轂、不知一跌将赤吾之族也(客は徒に吾が轂を朱丹にせんとして、一たび跌けば将に吾の族を赤くせんことを知らざるなり)」と。
○飄颻放志意 「飄颻」は、ひらりと軽やかに飛翔するさま。畳韻語。一句は、『文選』巻29「古詩十九首」其十二にいう、「蕩滌放情志、何為自結束(蕩滌として情志を放たん、何為れぞ自ら結束せる)」を踏まえる。
○千秋 永遠。たとえば『戦国策』巻9・斉策二に「犀首跪行、為儀千秋之祝(犀首は跪行して、(張)儀の千秋の祝を為す」とあるように、相手を言祝ぐのに常套的に用いられる語。