04-03 元会

04-03 元会  元会

【解題】
元旦に朝廷で催される宴席に、皇室の一員として参列して作った詩。魏の制度では、藩王は朝覲できないこととなっていたが(『晋書』巻二十一・礼志下)、明帝の太和五年(二三一)冬、諸王に詔が下されて、翌六年正月の朝見が許された(『三国志』巻十九・陳思王植伝)。本詩はこの時の作であろうと判断される。趙幼文『曹植集校注』p.493を参照。

初歳元祚  初歳 元祚、
吉日惟良  吉日 惟れ良し。
乃為嘉会  乃ち嘉会を為さんと、
讌此高堂  此の高堂に讌す。
尊卑列叙  尊卑 列叙し、
典而有章  典(ただ)しくして章(あや)有り。
衣裳鮮潔  衣裳 鮮潔にして、
黼紱玄黄  黼紱 玄黄なり。
清酤盈爵  清酤 爵に盈ち、
中坐騰光  中坐 光を騰(あ)ぐ。
珍膳雑遝  珍膳 雑遝し、
充溢円方  円方に充溢す。
笙磬既設  笙磬 既に設けられ、
筝瑟倶張  筝瑟 倶に張られたり。
悲歌厲響  悲歌 響きを厲(はげ)しくし、
咀嚼清商  清商を咀嚼す。
俯視文軒  俯しては文軒を視、
仰瞻華梁  仰ぎては華梁を瞻る。
願保茲善  願はくは茲の善を保ち、
千載為常  千載 常為らんことを。
歓笑尽娯  歓笑して娯しみを尽くし、
楽哉未央  楽しき哉 未だ央きず。
皇家栄貴  皇家は栄貴にして、
寿考無疆  寿考 疆(かぎ)り無し。

【通釈】
歳の初め、大いなるご加護を祈る、このよき日。そこで、めでたい集まりを為すために、この立派な御殿にて年始の宴が催される。身分や年齢に応じて座席が整然と並び、その様は折り目正しく優美だ。衣裳は真新しく清らかで、華麗な縫い取りが施されて黒と黄色に輝いている。一夜でかもした澄んだ酒が爵いっぱいに満ち、一座の人々はみな頬を紅潮させて内から輝きを放っている。珍しいご馳走が多彩にたっぷりと集って、丸い皿や四角い器に満ち溢れる。笙や磬の楽器は既に設けられ、箏や瑟もともに準備が整った。そこで、悲哀の歌が張り詰めた響きを研ぎ澄まし、歌姫たちの唇が清商の曲調で詠唱する。うつむいては文様の施された軒を見つめ、振り仰いでは華やかに装飾された梁を見上げる。どうか、この善き吉祥が長く保たれ、千年もの長きに渡って不変のものとなりますように。笑いさざめきながら心ゆくまでくつろいで、愉快なことよ、楽しみはまだこれからだ。皇族一家は栄華や富貴を極め、限りない長寿に恵まれますよう。

【語釈】
○初歳 一年の初め。『史記』巻二十七・天官書に、「凡候歳美悪、謹候歳始。歳始或冬至日、産気始萌、臘明日、人衆卒歳、一会飲食、発陽気。故曰初歳(凡そ歳の美悪を候(うかが)ふに、謹んで歳の始めを候ふ。歳始或いは冬至の日、産気始めて萌え、臘の明日、人衆は歳を卒ふとして、一に会して飲食し、陽気を発す。故に初歳と曰ふ)」と。
○元祚 神から授けられる大いなる恩寵。『文選』巻三、張衡「東京賦」に、「神歆馨而顧徳、祚霊主以元吉(神は馨を歆(う)けて徳を顧み、霊主に祚(むく)ゆるに元吉を以てす)」、薛綜注に「元、大也(元とは、大なり)」と。
○吉日惟良 『楚辞』九歌「東皇太一」にいう、「吉日兮辰良、穆将愉兮上皇(吉日にして辰(とき)良し、穆(つつし)みて将に上皇を愉しましめんとす)」を踏まえる。
○嘉会 「嘉」字、底本は「佳」に作る。今、『藝文類聚』巻四・『太平御覧』巻二十九等によって改める。用例として、『文選』巻二十九、蘇武「詩四首」其四に、「嘉会難両遇、懽楽殊未央(嘉会 両たびは遇ひ難し、懽楽 殊ほ未だ央きず)」と。
○尊卑 身分や年齢の高下。
○典而有章 『春秋左氏伝』襄公三十一年に、君子のあるべき姿勢として、「動作有文、言語有章、以臨其下、謂之有威儀也(動作に文有り、言語に章有り、以て其の下に臨む、之を威儀有りと謂ふなり)」というのを意識している可能性がある。
○黼紱玄黄 「黼紱」は、皇帝や高官の礼服に施された文様。「玄黄」はその縫い取りの色、黒と黄色。たとえば、『礼記』祭義篇に「遂朱緑之、玄黄之、以為黼紱文章(遂に之を朱緑にし、之を玄黄にし、以て黼紱文章を為す)」と。
○酤 一夜でかもした酒。
○爵 酒を温める器。三本足で、注ぎ口と取っ手が付いている。
○中坐 宴席一座の中。
○騰光 輝きを放つ。『楚辞』招魂に「蛾眉曼睩、目騰光些(蛾眉 曼睩、目は光を騰ぐ)」、王逸注に「曼、沢也。睩、視也(曼は、沢(うるほ)ふなり。睩は、視るなり)」、「騰、馳也。言美女之貌、蛾眉玉白、好目曼沢、時睩睩然視、精光騰馳、驚感人心也(騰は、馳するなり。言は美女の貌、蛾眉玉白にして、好目曼沢、時に睩睩然として視、精光は騰馳して、人心を驚感せしむるなり)」と。黄節は、これを意識している可能性を指摘する(『曹子建詩註』巻一)。
○珍膳雑遝・充溢円方 「雑遝」は、多彩なものが重なり合うこと。「円方」は、円形や四角の食器。張衡「南都賦」(『文選』巻四)にいう「揖譲而升、宴于蘭堂。珍羞琅玕、充溢円方(揖譲して升り、蘭堂に宴す。珍羞は琅玕のごとく、円方に充溢す)」を用いる。
○咀嚼清商 「咀嚼」は、食物などを噛みこなす。ここでは、歌辞を味わいつつ、歌声を吐き出すことをいう。「清商」は、清らかで哀切さを帯びた曲調の歌。張衡「西京賦」(『文選』巻二)に、「嚼清商而却転、増嬋娟以此豸(清商を嚼して却転し、嬋娟を増して以て此豸す)」とあるのを踏まえる。
○願保茲善 「善」字、底本は「喜」に作る。恐らくは字形の類似による誤り。今、前掲『藝文類聚』『太平御覧』等によって改める。『易』乾卦の文言伝に、「元者、善之長也(元とは、善の長なり)」と。
○歓笑尽娯・楽哉未央 類似表現として、たとえば前掲の蘇武詩に「懽楽殊未央」、古楽府「怨詩行」(『楽府詩集』巻四十一)に「人間楽未央、忽然帰東岳(人間に楽しみ未だ央きざるに、忽然として東岳に帰す)」、劉楨「公讌詩」(『文選』巻二十)に「懽楽猶未央(懽楽 猶ほ未だ央きず)」、曹丕「大牆上蒿行」(『楽府詩集』巻三十九)に「今日楽不可忘、楽未央(今日の楽しみ忘る可からず、楽しみは未だ央きず)」と。
○寿考 長寿。用例として、『毛詩』大雅「行葦」に、「寿考維祺、以介景福(寿考 維れ祺なり、以て景福を介く)」と。