04-05-4 雑詩 六首(4)

04-05-4 雑詩 六首 其四  雑詩 六首 其の四

【解題】
世間から見捨てられた南国の美人に託して、優れた才能を持ちながらそれを発揮する機会に恵まれない人の嘆きを詠ずる。『文選』巻二十九所収「雑詩六首」の其四、『玉台新詠』巻二所収「雑詩五首」の其五。黄節は、本詩にいう「佳人」は、黄初三年(二二二)から五年の間、呉王であった曹彪を指すと推定する(『曹子建詩註』巻一)。[04-05-01 雑詩 六首(1)]の解題も併せて参照されたい。

南国有佳人  南国に佳人有り、
容華若桃李  容華 桃李の若し。
朝遊江北岸  朝に江北の岸に遊び、
夕宿瀟湘沚  夕に瀟湘の沚(みぎわ)に宿す。
時俗薄朱顔  時俗 朱顔を薄(かろ)んず、
誰為発皓歯  誰が為にか皓歯を発(ひら)かん。
俯仰歳将暮  俯仰 歳は将(まさ)に暮れんとす、
栄曜難久恃  栄曜 久しくは恃(たの)み難し。

【通釈】
南国に美しい人がいて、その華やかな容貌はまるで桃李の花のようだ。朝には長江の北岸に遊び、夕方には瀟湘の渚に宿をとる。世間に若々しい容貌を軽んずる風潮がある中で、誰のために白く輝く歯をほころばせればよいのだろう。時はあっという間に移ろって、今にも歳が暮れようとしている。光り輝く美貌も、久しく頼みとすることは難しい。

【語釈】
○南国有佳人 「南国」は、江南、揚子江流域一帯をいう。『楚辞』九章「橘頌」に「受命不遷、生南国兮(命を受けて遷らず、南国に生ず)」、王逸注に、「南国、謂江南也」と。「佳人」は、『楚辞』九歌「湘夫人」に「聞佳人兮召予、将騰駕兮偕逝(佳人の予を召すを聞き、将に騰駕して偕に逝かん)」と見える。一句は、李延年の歌(『漢書』巻九十七上、外戚伝上)にいう「北方有佳人(北方に佳人有り)」を想起させる。
○容華若桃李 「容華」は、華やかな容貌。一句は、『毛詩』召南「何彼襛矣」にいう「何彼襛矣、華如桃李(何ぞ彼の襛たる、華は桃李の如し)」を踏まえる。
○朝遊江北岸・夕宿瀟湘沚 「江北」、底本は「北海」に作る。今、『文選』に従っておく。「瀟」「湘」は、いずれも川の名。瀟水は湘水に合流して洞庭湖に注ぐ。下の句、李善注本『文選』は「日夕宿湘沚」に作り、対句を為さないが、後世、底本のように整えられた可能性もある。両句の発想は、九歌「湘君」(『文選』巻三十二)にいう「朝騁騖兮江皋、夕弭節兮北渚(朝には江皋に騁騖し、夕には節を北渚に弭む)」に基づくか。
○朱顔 若々しく華やいだ顔。『楚辞』大招に「容則秀雅、穉朱顔只(容は則ち秀雅にして、穉(わか)き朱顔よ)」と。
○皓歯 白く輝く歯。美女の属性のひとつ。『楚辞』大招に「朱唇皓歯、嫭以姱只(朱き唇に皓き歯、嫭(うつく)しく以て姱(うつく)しきかな)」と。
○俯仰 うつむくこととあおむくこと。わずかな時間を形容する。
○歳将暮 時の移ろいの速さをいう。『毛詩』小雅「小明」に「昔我往矣、日月方除。曷云其還、歳聿云莫(昔我往くに、日月は方に除せり。曷ぞ云はん其れ還るや、歳は聿に云に莫れんとす)」と。
○栄曜 光り輝かんばかりの華やかさ。用例として、辺譲「章華賦」(『後漢書』巻八十下・文苑伝)に、舞姫の様子を描写して「体迅軽鴻、栄曜春華(体の迅きことは軽鴻のごとく、栄曜は春華のごとし)」と。