04-07-2 離友 二首(2)

【解題】
[04-07-1 離友 有序 二首 其一]の解題、及び序を参照。『藝文類聚』巻二十九所収。

涼風粛兮白露滋  涼風 粛として 白露 滋く、
木感気兮条葉辞  木 気に感じて 条葉 辞す。
臨淥水兮登重基  淥水に臨み 重基に登り、
折秋華兮采霊芝  秋華を折り 霊芝を采り、
尋永帰兮贈所思  尋(つ)いで永く帰る 思ふ所に贈る。
感離隔兮会無期  離隔して 会ふに期無きに感じ、
伊鬱悒兮情不怡  伊(こ)れ鬱悒して 情 怡(たの)しまず。

【通釈】
涼やかな風が粛然と吹き起こり、白露が草の葉にびっしりと置くようになった。樹木は秋の気に感じて、その枝葉が別れを告げて落ちてゆく。清らかな水に臨み、小高く築いた丘に登って、秋に咲く香草の花を折り取り、霊芝を摘んで、まもなく遥か彼方へ帰ってゆく、慕わしいあの方へ贈るのだ。離別して遠く隔てられ、再会はいつになるかわからない。ああ、それを思うと心は鬱々と楽しまない。

【語釈】
○涼風粛兮白露滋 「涼風」「白露」ともに初秋の風物。『礼記』月令の「孟秋之月」に「涼風至、白露降(涼風至り、白露降る)」と。
○木感気兮条葉辞 樹木が枝葉を落とすのは晩秋の風物。『礼記』月令の「季秋之月」に「是月也、草木黄落(是の月や、草木黄落す)」と。「条」字、底本は「柔」に作る。今、『藝文類聚』に拠って改める。
○臨淥水兮登重基 「淥水」は、清らかに澄んだ水。張衡「東京賦」(『文選』巻三)に「於東則洪池清蘌、淥水澹澹(東に於いては則ち洪池清蘌あり、淥水澹澹たり)」と。「重基」は、築山。『文選』巻十八、嵆康「琴賦」に「渉蘭圃、登重基(蘭圃を渉り、重基に登る)」、その李善注に引く『春秋運斗枢』に「山者地之基(山なる者は地の基なり)」と。一句は、『楚辞』九辯にいう「登山臨水兮送将帰(山に登り水に臨みて将に帰らんとするを送る)」を踏まえる。
○折秋華兮采霊芝、尋永帰兮贈所思 「秋華」は、蘭(ふじばかま)などの香草が秋に咲かせる花。張衡「思玄賦」(『文選』巻十五)に「纗幽蘭之秋華兮、又綴之以江離(幽蘭の秋華を纗(か)け、又之を綴るに江離を以てす)」と。「霊芝」は、伝説上の仙草。仙人の食べ物。「平陵東」(05-22)に「東上蓬莱采霊芝(東のかた蓬莱に上りて霊芝を采らん)」と既出。また、『楚辞』九歌「山鬼」に「采三秀兮於山間(三秀を山間に采る)」、王逸注に「三秀、芝草也(三秀とは、芝草なり)」と。植物を折り取って人に贈ろうと詠ずるこの二句は、『楚辞』九歌「山鬼」にいう「折芳馨兮遺所思(芳馨を折りて思ふ所に遺らん)」等、九歌に頻見する発想である。また、「兮」を挟んで前後に三字ずつ配する詩型も九歌に特有のものである。
○感離隔兮会無期 類似する表現が、古詩「蘭若生春陽」(『玉台新詠』巻一に枚乗「雑詩九首」其六として採録)に「美人在雲端、天路隔無期(美人 雲端に在り、天路 隔てられて期する無し)」、また、後漢の石勛「費鳳別碑」(『隷釈』巻九)に、「壹別會無期、相去三千里(壹たび別るれば会ふに期無し、相去ること三千里)」と見えている。
○伊鬱悒兮情不怡 「伊」は、発語の助字。「鬱悒」は、憂える。『楚辞』離騒に「曾欷歔余鬱邑兮(曾(かさ)ねて欷歔して余(われ)鬱邑す)」、王逸注に「鬱邑、憂也(鬱邑は、憂ふるなり)」「邑、一作悒(邑、一に悒に作る)」と。「不怡」は、楽しまないさま。『楚辞』九章「哀郢」に「心不怡之長久兮、憂与愁其相接(心怡しまざることの長久にして、憂ひと愁ひと其れ相接す)」と。

【余説】
『初学記』巻十八「離別」に、「曹植離友詩」と題して次の佚句を引く。

日匿景兮天微陰、経迥路兮造北林。
日は景(ひかり)を匿して天は微かに陰(かげ)り、迥(とほ)き路を経て北林に造(いた)る。

太陽は光を覆い隠し、かすかな翳りを生じている空の下、遥かな道を通って、北の林に到着した。。

○匿景 日が沈む。用例として、呉質「在元城与魏太子牋(元城に在りて魏の太子に与ふる牋)」(『文選』巻四十)に、「前蒙延納、侍宴終日。燿霊匿景、継以華灯(前に延納を蒙り、宴に侍して日を終ふ。燿霊は景を匿し、継ぐに華灯を以てす)」と。
○微陰 うっすらと日が翳る。用例として、曹植「情詩」(『文選』巻二十九)に、「微陰 陽景を翳(おほ)ふ」と。
○迥路 はるかな遠い道。
○北林 宮中の庭園内にある林をいうか。用例として、曹丕「善哉行」(『宋書』巻二十一・楽志三)に、「飛鳥翻翔舞、悲鳴集北林(飛鳥は翻翔して舞ひ、悲鳴して北林に集まる)」と。『毛詩』秦風「晨風」に「鴪彼晨風、鬱彼北林(鴪たる彼の晨風、鬱たる彼の北林)」、毛伝に「先君招賢人、賢人往之、駃疾如晨風之飛入北林(先君は賢人を招き、賢人は之に往き、駃疾なること晨風の北林に飛び入るが如し)」とあるのを踏まえているかもしれない。

また、『文選』巻二十一、謝瞻「張子房詩一首」の李善注に引く「曹植離友詩」に、「霊鑑無私(霊鑑には私無し)」と。