05-02 野田黄雀行

05-02 野田黄雀行  野田黄雀行

【解題】
野原に棲む雀の受難とその救済を仮想して詠じた歌。『楽府詩集』巻三十九・瑟調曲に、「箜篌引」(05-01)とともに収録する。本詩に詠じられた「黄雀」は丁儀・丁廙を指すと見る論者が多い。丁氏兄弟は、曹操の後継者として曹植を強く推し、延康元年(220)、魏王の位を継いだ曹丕に殺された(『三国志』巻十九・陳思王植伝及びその裴松之注に引く『魏略』『文士伝』)。

高樹多悲風  高樹に悲風多く、
海水揚其波  海水は其の波を揚ぐ。
利剣不在掌  利剣 掌に在らざれば、
結友何須多  結友 何ぞ多きを須(もと)めんや。
不見籬間雀  見ずや 籬間の雀、
見鷂自投羅  鷂(はいたか)を見て自ら羅に投ず。
羅家得雀喜  羅家は雀を得て喜び、
少年見雀悲  少年は雀を見て悲しむ。
抜剣捎羅網  剣を抜きて羅網を捎(はら)へば、
黄雀得飛飛  黄雀は飛び飛ぶことを得たり。
飛飛摩蒼天  飛び飛びて蒼天を摩し、
来下謝少年  来り下りて少年に謝す。

【通釈】
高い樹木に悲しげな風がうなりをあげて吹き付け、海水はその波を巻き上げる。鋭い剣がこの手の中にない以上、交友関係を結んでも、どうして私に多くを求められようか。見よ、籬(まがき)の間にいた雀は、ハイタカを見ると自ら網羅の中に身を投じた。網を仕掛けた人は雀を捕獲して喜び、若者は雀を見て悲しむ。剣を抜いて網羅を切り払うと、黄雀は羽ばたくことができるようになった。羽ばたいて羽ばたいて青い大空に届かんばかりに飛んだかと思うと、飛び下ってきて若者に謝意を告げた。

【語釈】
○須 要求する。
○鷂 小型の猛禽。林間を飛翔して小鳥などを捕食する。巻三「鷂雀賦」にも雀とともに登場する。
○羅家 網を仕掛けた人。
○少年 雀が網に罹るのを見ていた若者。
○抜剣捎羅網 「剣」は、窮地に陥ったか弱き存在を救い出せる権力を象徴する。この句の主体が、三句目に「利剣 掌に在らず」と詠ずる者に重なり合うとするならば、本詩は「剣」をめぐって、前四句とそれ以降との間で切り裂かれている。大上正美氏はこのことに注目し、この句が表象するものを「現実には部下たちを救えない詩人の激しく仮構した利剣」と捉える。『思索と詠懐(中国古典詩聚花)』(小学館、一九八五年))二七―二九頁を参照。
○黄雀 雀の一種。嘴と脚が黄色味を帯びる。