05-05-2 升天行 二首 其二

05-05-2 升天行 二首 其二  升天行 二首 其の二

【解題】
「升天行二首」其一(05-05-1)の解題を参照されたい。

扶桑之所出  扶桑の出づる所、
乃在朝陽谿  乃ち朝陽の谿に在り。
中心陵蒼昊  中心は蒼昊陵を陵ぎ、
布葉蓋天涯  葉を布(し)きひろげては天涯を蓋ふ。
日出登東幹  日 出でて 東の幹より登り、
既夕没西枝  既に夕となれば 西の枝に没す。
願得紆陽轡  願はくは陽に紆(ゆ)はへたる轡を得て、
回日使東馳  日を回らせて東のかたへ馳せしめんことを。

【通釈】
扶桑の木の生い出るところ、それは、朝日が湯あみする谷川である。その木の幹は青空を凌駕して上へ伸び、葉をいっぱいに生い茂らせて天の果てまでも被っている。太陽は幹の東方から昇り、暮方になってしまえば西の枝の向こうへ沈んでゆく。できることならば、太陽に結わえ付けた轡を手に入れて、日輪を引き戻して東方へと疾駆させたいものだ。

【語釈】
○扶桑 神話の中の樹木の名。『山海経』海外東経、黒歯国に「下有湯谷、湯谷上有扶桑(下に湯谷有り、湯谷の上に扶桑有り)」。『楚辞』九歌「東君」に「暾将出兮東方、照吾檻兮扶桑(暾として将に東方より出でんとし、吾が檻を扶桑より照らす)」、王逸注に「東方有扶桑之木、其高万仞。日出、下浴於湯谷、上払其扶桑、爰始而登、照曜四方(東方に扶桑の木有り、其の高さは万仞。日出でて、下は湯谷に浴し、上は其の扶桑を払ひ、爰に始めて登り、四方を照曜す)」と。
○朝陽谿 朝に日が出る谷、すなわち前掲注に示す「湯谷」を指す。『楚辞』天問に「出自湯谷、次于蒙汜(湯谷より出でて、蒙汜に次(やど)る)」、王逸注に「日出東方湯谷之中、暮入西極蒙水之涯也(日は東方湯谷の中に出で、暮れには西極蒙水の涯に入るなり)」と。 乃在朝陽谿。※楽府詩集63[乃在朝陽渓].
○蒼昊 天空をいう。『爾雅』釈天に「春為蒼天、夏為昊天(春は蒼天為り、夏は昊天為り)」と。
○紆陽轡 太陽に結わえ付けた轡。太陽の運行を、車を牽いて疾駆する馬に見立てた表現。