05-11-2 豫章行 二首(2)
05-11-2 豫章行 二首 其二 豫章行 二首 其の二
【解題】
古楽府「豫章行」の楽曲に乗せて、肉親どうしの親密な連携が得難いことを詠じた楽府詩。同じ楽府題の作品[05-11-1 豫章行 二首 其一]を併せて参照されたい。『藝文類聚』巻四十一、『楽府詩集』巻三十四所収。
鴛鴦自朋親 鴛鴦は自(おのづか)ら朋(む)れ親しむも、
不若比翼連 比翼の連なるに若かず。
他人雖同盟 他人は同盟すと雖も、
骨肉天性然 骨肉は天性として然(しか)り。
周公穆康叔 周公 康叔に穆たりて、
管蔡則流言 管・蔡は則ち流言す。
子臧譲千乗 子臧 千乗を譲りて、
季札慕其賢 季札は其の賢なるを慕ふ。
【通釈】
鴛鴦は自ずから群れをなして親しみあうというが、比翼の鳥が連なって飛ぶのには及ばない。血縁関係のない他人どうしは盟約を結んで好みを通ずるが、骨肉の間柄では、天賦の本性としてそうするのだ。周公旦が、弟の康叔封に手厚い処遇をすると、管叔鮮と蔡叔度は、(骨肉の間柄でありながら)周公旦を中傷する事実無根のうわさを流した。春秋時代曹国の子臧は、君主の座を辞退して、呉の季札は、(同様の状況下で)彼の賢明さに心を寄せた。
【語釈】
○鴛鴦 おしどり。常に連れ合いで共に行動する(『毛詩』小雅「鴛鴦」の毛伝、及び鄭箋)。
○朋親 群をなして親しみあう。
○比翼連 南方にいる鶼鶼という鳥は、片方の翼と目しか持たないため、二羽が揃って始めて飛べる(『爾雅』釈地、及びその郭璞注)。どちらか一方のみでは立ち行かない、非常に親密な関係の喩え。
○他人雖同盟 「他人」は、血縁関係のない人。『毛詩』唐風「杕杜」にいう「豈無他人、不如我同父(豈に他人無からんや、我が同父に如かず)」を踏まえる。「同父」とは、父を同じくする兄弟。「同盟」は、共に盟約を結んで好誼を通ずること。たとえば『春秋左氏伝』僖公九年に、「凡我同盟之人、既盟之後、言帰于好(凡そ我が同盟の人、既に盟ぜしの後は、言(ここ)に好(よし)みに帰す)」と。
○骨肉天性然 「骨肉」は、親子や兄弟など、血を分けた肉親。「天性」は、生まれながらに授けられた本性。たとえば、『孝経』聖治章に「父子之道、天性也(父子の道は、天性なり)」と。
○周公穆康叔 「周公」は、周公旦。周の文王の子にして、武王の弟。武王の没後、幼くして即位した成王の摂政を務めた(『史記』巻三十三・魯周公世家)。「康叔」は、周公旦の弟で、名は封。周公旦が「管蔡」の反逆を誅伐すると、衛国に封ぜられた(『史記』巻三十七・衛康叔世家)。「穆」は、丁重で手厚いことをいう。
○管蔡則流言 「管蔡」は、周の武王の弟、管叔鮮と蔡叔度。周公旦が成王を補佐するようになると、その思惑を邪推して事実無根の虚言を流し、反乱を企てた(『史記』巻三十五・管蔡世家)。
○子臧譲千乗 「子臧」は、春秋時代曹の宣公の庶子。宣公の没後、太子を弑して即位した成公に対して、人々は子臧を立てようとしたが、子臧は宋に出奔した(『春秋左氏伝』成公十五年)。「千乗」とは、兵車千両を出せるほどの有力な諸侯。ここでは、曹の君主という地位をいう。
○季札慕其賢 「季札」は、春秋時代呉の寿夢の末子。寿夢の没後、後を継いだ長兄の諸樊に王位を譲られたが、これを固辞して「願附於子臧之義(願はくは子臧の義に附せんことを)」と言った(『史記』巻三十一・呉太伯世家)。