05-20 当来日大難

05-20 当来日大難  来る日は大いに難しに当つ

【解題】
「来日大難」を冒頭句とする古辞「善哉行」(05-19)の替え歌として作られた歌辞。宴席に招いた客人たちを歓待する歌。『楽府詩集』巻三十六、『詩紀』巻十三所収。

日苦短      日は苦(はなは)だ短く、
楽有餘      楽しみは餘り有り、
乃置玉樽辦東厨  乃ち玉樽を置き 東厨に辦(ととの)へしむ。
広情故      情故を広め、
心相於      心 相於(たの)しむ。
闔門置酒     門を闔(と)ぢて置酒し、
和楽欣欣     和楽して欣欣たり。
遊馬後来     遊馬 後れて来らしめ、
轅車解輪     轅車 輪を解かしむ。
今日同堂     今日 堂を同じくするも、
出門異郷     門を出づれば郷を異にす。
別易会難     別るるは易く 会ふは難し、
各尽杯觴     各(おのおの)杯觴を尽くせ。

【押韻】餘・於(上平声09魚韻)、厨(上平声10虞韻)、故(去声11暮韻)。欣(上平声21欣韻)、輪(上平声18諄韻)。堂(下平声11唐韻)、郷・觴(下平声10陽韻)。

【通釈】
一日はひどく短く、楽しみは有り余るほどある。そんなわけで、玉づくりの酒樽をしつらえ、東の厨房で肴をたんと整えさせた。ゆったりと旧交を温め、互いに心を通わせて愉快に過ごそう。
門を閉じて酒をならべ、和やかにうきうきと宴を楽しもう。馬は解き放ったからすぐに来はしないし、車は車輪を外しておいたから帰れはしない。
今日、同じ座敷を共にしていても、門を出れば、郷里は別々だ。別れはたやすく、会うのは難しい。どうか、それぞれ酒杯を飲み干してくれ。

【語釈】
○日苦短、楽有餘 『文選』巻二十八、陸機「短歌行」にいう「来日苦短、去日苦長(来たる日は苦だ短く、去る日は苦だ長し)」、その李善注に曹植「苦短篇」として引く「苦楽有餘(苦楽 餘り有り)」はここを指すか。
○乃置玉樽辦東厨 「辦」は、料理を万端ととのえる。一句と同様の事物を詠ずる宴の歌辞として、古歌(『藝文類聚』巻七十四、『詩紀』巻七)に「上金殿、著玉樽。……東厨具肴膳、椎牛烹猪羊(金殿に上り、玉樽を著く。……東厨に肴膳を具へ、牛を椎(う)ち猪羊を烹る)」と。
○広情故 未詳。「広」は、ゆったりとおし広げるの意か。「情故」は、親しみとなつかしく思う気持ちをいうか。傅玄「晋鼙舞歌・洪業篇」(『宋書』巻二十二・楽志四)に「昔日多繊介、今去情与故(昔日に繊介多く、今や情と故とを去る)」と。
○相於 相親しむ。用例として、『焦氏易林』巻一「蒙之巽」に、「患解憂除、王母相於、与喜倶来、使我安居(患ひ解かれ憂ひ除かれ、王母相於しみ、与に喜びて倶に来り、我をして安居せしむ)」、また、孔融「与韋林甫書」(『藝文類聚』巻五十三)に「挙杯相於、以為邑邑(杯を挙げて相於しみ、以て邑邑を為す)」と。
○和楽 和やかに睦み合い楽しむ。『毛詩』小雅「常棣」に「兄弟既具、和楽且孺(兄弟は既に具(つれだ)ち、和楽し且つ孺(したが)ふ)」と。
○欣欣 宴を楽しむさま。『毛詩』大雅「鳧鷖」に「旨酒欣欣、燔炙芬芬(旨酒は欣欣たり、燔炙は芬芬たり)」、毛伝に「欣欣然、楽也(欣欣然とは、楽しむなり)」と。
○遊馬後来、轅車解輪 「轅車解輪」は、車から車輪を外す。客を引き留めることをいう。『漢書』巻九十二・遊侠伝(陳遵)に「賓客満堂、輒関門、取客車轄投井中、雖有急、終不得去(賓客 堂に満つれば、輒ち門を関ぢ、客の車轄を取りて井中に投じ、急有りと雖も、終に去るを得ざらしむ)」と。「遊馬後来」も、これと同じ趣旨で、馬を車から解き放ち、すぐには戻れないようにすることをいうか。
○別易会難 類似表現として、曹丕「燕歌行」(『宋書』巻二十一・楽志三)に「別日何易会日難(別日の何ぞ易く会日の難き)」と。『文選』巻二十八、陸機「豫章行」の李善注に、「又(古詩)曰、別日何易、会日何難」とあることから、この表現が曹丕以前にまで遡れる可能性もある。