05-31 桂之樹行

05-31 桂之樹行  桂の樹の行(うた)

【解題】
桂の木に寄せて、神仙へのあこがれを詠じた楽府詩。『楽府詩集』巻六十一、『詩紀』巻十三所収。

桂之樹 桂之樹  桂の樹、桂の樹、
桂生一何麗佳  桂の生ずる 一に何ぞ麗佳なる。
揚朱華而翠葉  朱華而(およ)び翠葉を揚げ、
流芳布天涯  流芳 天涯に布く。
上有棲鸞  上には棲鸞有り、
下有蟠螭  下には蟠螭有り。
桂之樹  桂の樹、
得道之真人  得道の真人、
咸来会講仙  咸(みな)来りて会し 仙を講ず。
教爾服食日精  爾(なんぢ)に日精を服食せんことを教へ、
要道甚省不煩  要道は甚だ省にして煩ならず、
澹泊無為自然  澹泊 無為 自然なりと。
乗蹻万里之外  蹻に乗る 万里の外、
去留随意所欲存  去留 意の存せんと欲する所に随ふ。
高高上際於衆外  高く高く上りて衆外に際(いた)り、
下下乃窮極地天  下り下りて乃ち地天を窮極す。

【押韻】佳・涯(上平声13佳韻)。鸞(上平声26桓韻)、人(上平声17真韻)、仙・然(下平声02仙韻)、煩(上平声22元韻)、存(上平声23魂韻)、天(下平声01先韻)。

【通釈】
桂の樹、桂の樹、桂の生い茂るさまの、まったくなんと麗しいことか。深紅の花と翠の葉を明々と輝かせ、流れる芳香は天の果てまで広がっている。
その上には巣をかまえる鸞がいて、下にはわだかまるみずちの姿がある。桂の樹、そこに道を体得した真人たちが皆集まってきて、神仙の話題で持ちきりだ。君に太陽の精粋を服食することを教え、要となる方法はとても簡素で繁雑なことはなく、恬淡として無欲、人為的な仕掛けは設けず、自然のままであればよいと説いて聞かせる。仙人の履物に乗って万里の外に遊び、行くも留まるも意の赴くままに従う。高く高く昇って人間世界の外に到達したかと思えば、下りに下って天地の間を見極め尽くす。

【語釈】
○桂之樹 桂樹の芳香は、優れた人物のイメージに重ねられる。『楚辞』招隠士に「桂樹叢生兮山之幽(桂樹 山の幽に叢生す)」、王逸注に「桂樹芬香以興屈原之忠貞也(桂樹が芬香は以て屈原の忠貞を興ずるなり)」と。
○揚朱華而翠葉 「揚」は、輝きを発する。「而」は、及び。二つの語を並列でつなぐ助字。
○流芳布天涯 類似する語の並びとして、「七啓」(08-07)に「薫以幽若、流芳肆布(薫ずるに幽若を以てし、流芳 肆(つらな)り布く)」と。
○鸞 伝説上の神鳥で、鳳凰の一種。
○蟠螭 わだかまるみずち。もし「螭蟠」に作るのであれば、上句の「鸞」と同じ脚韻となり、以下の句とも押韻する。だが、このように作るテキストはなく、文法的にも「棲鸞」と対を為さない。
○真人 道の奥義を体得し、仙人となり得た人物。
○服食日精 「日精」は、太陽の精粋。仙人の服食物として、『楚辞』遠遊に「漱正陽而含朝霞(正陽に漱ぎて朝霞を含む)」、王逸注に「餐呑日精、食元符(日精を餐呑し、元符を食す)」と。
○要道甚省不煩 類似表現として、古楽府「善哉行」(『宋書』巻二十一・楽志三、「清商三調」瑟調曲)に「淮南八公、要道不煩(淮南の八公、要道 煩ならず)」と。
○澹泊 恬淡として無欲なこと。用例として、『漢書』巻一〇〇、叙伝上に「絶聖棄智、修正保真、清虚澹泊、帰之自然(聖を絶ち智を棄て、正しきを修め真なるを保ち、清虚澹泊にして、之を自然に帰す)」と。
○乗蹻 仙人の飛行法。「蹻」は、方士の履物。時代は少し下るが、西晋の木華「海賦」(『文選』巻十二)に「不汎陽侯、乗蹻絶往(陽侯のなみに汎ばず、蹻に乗りて絶(わた)り往く)」、葛洪『抱朴子』雑応篇に「若能乗蹻者、可以周流天下、不拘山河(若し能く蹻に乗らば、以て天下を周流し、山河に拘らざる可し)」と。「升天行二首」其一(05-05-1)にも、「乗蹻追術士、遠之蓬莱山(蹻に乗りて術士を追ひ、遠く蓬莱山に之く)」と。
○高高上際於衆外 「際」は、至る。『淮南子』原道訓に「夫道者、覆天載地、……高不可際、深不可測(夫れ道なる者は、天を覆ひ地を載せ、……高くして際る可からず、深くして測る可からず)」、高誘注に「際、至也(際は、至るなり)」と。