05-35 当車以駕行
05-35 当車以駕行 「車以駕行」に当つ
【解題】
歌曲「車は以て駕す行」の替え歌として作られた歌辞。宴席に招いた客人たちを歓待するさまを詠ずる。『楽府詩集』巻六十一、『詩紀』巻十三所収。宋本及び『楽府詩集』は、「以」字を同音の「已」に作る。
歓坐玉殿 玉殿に歓坐し、
会諸貴客 諸貴客に会す、
侍者行觴 侍する者は觴を行(まは)し、
主人離席 主人は席を離る。
顧視東西廂 顧みて東西の廂を視れば、
糸竹与鞞鐸 糸竹と鞞鐸とあり。
不酔無帰来 酔はずんば帰ること無かれ、
明灯以継夕 明灯 以て夕に継ぐ。
【押韻】客(入声20栢韻)、席・夕(入声22昔韻)、鐸(入声19鐸韻)。
【通釈】
玉づくりの御殿に楽しい宴席を設け、諸々の賓客たちと一堂に会する。傍らに侍る者たちは酒杯を回し、宴の主人は席を離れる。ふり返って東西の廂を見やれば、管弦楽の演奏や鼙舞・鐸舞が披露されている。「酔わないうちは帰れませんよ。」明々と輝く灯火をともし、宴は夜に引き継がれる。
【語釈】
○歓坐玉殿 類似句が、『焦氏易林』巻三「萃之晋」に「安坐玉堂、聴楽行觴(玉堂に安坐し、楽を聴き觴を行(まは)す)」、曹丕「大牆上蒿行」(『楽府詩集』巻三十九)に「排金鋪、坐玉堂(金鋪を排し、玉堂に坐す)」と。宋本『曹子建文集』、『楽府詩集』、「歓」字無し。
○行觴 客に酒杯をまわす。たとえば、前掲の曹丕「大牆上蒿行」にも「前奉玉巵、為我行觴(前みて玉巵を奉じ、我の為に觴を行す)」と。
○東西廂 正堂の東西の両脇にある部屋。たとえば、王逸「魯霊光殿賦」(『文選』巻十一)に「西廂踟躕以閑宴、東序重深而奥祕(西廂は踟躕して以て閑宴、東序は重深にして奥祕なり)」、張載注に「東序、東廂也(東序は、東廂なり)」と。宴席が設けられる場として、曹操「駕六竜・気出倡」(『宋書』巻二十一・楽志三)にも「東西廂、客満堂。主人当行觴、坐者長寿遽何央(東西廂、客 堂に満つ。主人は行觴に当たりて、坐する者には長寿遽(なん)ぞ何ぞ央(つ)きんといふ)」と見える。
○糸竹与鞞鐸 「糸竹」は、管弦楽。『宋書』巻二十一・楽志三に「相和、漢旧歌也。絲竹更相和、執節者歌。(相和とは、漢の旧曲なり。絲竹更相和して、節を執る者歌ふ)」と。「鞞鐸」は、振り鼓と鈴。それに合わせる踊りとして鼙舞、鐸舞があり、その歌辞が『宋書』巻二十二・楽志四に見える。王粲「七釈」(『藝文類聚』巻五十七)に、宴席の情景を描いて「巴渝代起、鞞鐸響振(巴渝 代(かはるがはる)起き、鞞鐸 響振す)」と。
○不酔無帰来 「不酔無帰」は、宴席で主催者が客人を引き留める常套句。『毛詩』小雅「湛露」にいう「厭厭夜飲、不酔不帰(厭厭たる夜飲、酔はずんば帰らず)」に基づく。類似句として、王粲「公讌詩」(『文選』巻二十)に「不酔且無帰(酔はずんば且く帰ること無かれ)」、応瑒「侍五官中郎将建章台集詩」に「不酔其無帰(酔はずんば其れ帰ること無かれ)」と。「来」は、句末の語気助詞。『経伝釈詞』巻七、「来」の項を参照。
○明灯以継夕 日に夜を継いでの宴会は、たとえば『文選』巻二十九「古詩十九首」其十五に「昼短苦夜長、何不秉燭遊(昼は短く夜の長きに苦しむ、何ぞ燭を秉りて遊ばざる)」、曹丕「与朝歌令呉質書」(『文選』巻四十二)に「白日既匿、継以朗月(白日既に匿れ、継ぐに朗月を以てす)」と。