07-16 竜見賀表

07-16 竜見賀表  竜見(あらは)れて賀する表

【解題】
鳳凰や黄竜が現れたことを慶賀する上表文。こうした瑞祥は、為政者の徳に感応して出現すると考えられていた。その制作時期は、諸家が指摘するように、黄初三年(二二二)、曹植の腹違いの弟である曹袞が、鄴の西の漳水に黄竜が現れたことを慶賀して上書した(『三国志(魏志)』巻二十・中山恭王袞伝)のと同年と見てよいだろう。

臣聞鳳凰復見於鄴南、黄竜双出於清泉。聖徳至理、以致嘉瑞。将棲鳳於林囿、豢竜於陂池、為百姓旦夕之所観。

臣聞くならく 鳳凰 復た鄴南に見(あらは)れ、黄竜 双(ふた)つながら清泉より出づと。聖徳至理、以て嘉瑞を致す。将(まさ)に鳳を林囿に棲まはしめ、竜を陂池に豢(やしな)ひ、百姓が旦夕の観る所と為すべし。

【通釈】
お聞きしたところ、鳳凰がまた鄴の南方に姿を見せ、黄色い竜が一対、清らかな泉から出現したとのこと。皇帝陛下の至高の統治が、愛でたい瑞兆を引き寄せたのでしょう。ぜひとも鳳凰を林園に棲まわせ、竜を庭園の池に養って、百官が朝夕いつでもこれを観ることができるようにすべきです。

【語釈】
○鳳凰復見於鄴南 「鳳凰」は、優れた為政者の出現を表徴する瑞祥。『白虎通義』封禅に、「天下太平、符瑞所以来至者、以為王者承天統理、調和陰陽、陰陽和、万物序、休気充塞、故符瑞並臻、皆応徳而至。……徳至鳥獣、則鳳皇翔、鸞鳥舞、麒麟臻、白虎到、狐九尾、白雉降、白鹿見、白烏下(天下太平にして、符瑞の来り至る所以の者は、以為らく王者は天を承け理を統べ、陰陽を調和して、陰陽和し、万物序(つい)で、休気充塞す、故に符瑞並び臻(いた)り、皆徳に応じて至る。……徳鳥獣に至れば、則ち鳳皇翔り、鸞鳥舞ひ、麒麟臻り、白虎到り、狐九尾となり、白雉降り、白鹿見はれ、白烏下る)」と。「復見」というのは、魏王曹丕が後漢王朝から禅譲を受けるより前に、同様の瑞兆が出現しているからである。『三国志(魏志)』巻二・文帝紀の裴松之注に引く『献帝伝』に記す、延康元年(二二〇)十月九日、太史丞の許芝が魏王に奉った文章中に見える。「鄴」は、魏王国の都。もとは曹操のライバル袁紹の拠点であった。現在の河北省邯鄲市臨漳県に位置する。
○黄竜 土徳を有する天子に応じて現れる瑞祥。魏王朝の徳は土。『三国志(魏志)』文帝紀、裴松之注に引く『献帝伝』に載せる、給事中博士蘇林・董巴の上表に「魏之氏族、出自顓頊、与舜同祖。……舜以土徳承堯之火、今魏亦以土徳承漢之火、於行運、会于堯舜授受之次(魏の氏族は、顓頊より出で、舜と祖を同じくす。……舜は土徳を以て堯の火を承け、今魏も亦た土徳を以て漢の火を承け、行運に於いて、堯舜授受の次に会す)」と。
○聖徳至理 至高の徳、最高の統治。天子の属性をいう。
○将 「当」に相当する副詞。……するべきだ。
○林囿 木々の茂る庭園。
○陂池 堤で囲った池。畳韻語。
○百姓 諸々の官僚たち。『毛詩』小雅「天保」の毛伝に「百姓、百官族姓也(百姓とは、百官の族姓なり)と。
○旦夕 朝晩、いつも。