05-44 孟冬篇(鼙舞歌5)

05-44 孟冬篇(鼙舞歌5)   孟冬篇(鼙舞歌5)

【解題】
皇帝の狩猟とその後に催される饗宴の有り様を詠じ、末永い王朝の存続を祈念する歌辞。『宋書』巻二十二・楽志四所収「魏陳思王鼙舞歌五篇」の其五。『楽府詩集』巻五十三、『詩紀』巻十三にも収載。詩の本文は、基本的に『宋書』に拠る。「鼙舞歌」については、「鞞舞歌 有序 五首(序)」(05-39)を参照されたい。『宋書』楽志四によれば、本作品は「狡兎」に当てて作られたという。「狡兎」は、漢代「鼙舞歌」の「四方皇」と見てよいだろう。そう判断できる根拠については、「大魏篇(鼙舞歌3)」(05-42)の解題を参照されたい。

孟冬十月  孟冬十月、
陰気厲清  陰気 厲清なり。
武官誡田  武官 田を誡(いまし)め、
講旅統兵  旅を講じて兵を統ぶ。
元亀襲吉  元亀 吉を襲(かさ)ね、
元光著明  元光 著明なり。
蚩尤蹕路  蚩尤 路を蹕(さきばらひ)し、
風弭雨停  風は弭(や)み 雨は停まる。」
乗輿啓行  乗輿 啓行し、
鸞鳴幽軋  鸞鳴 幽(かす)かに軋(きし)る。
虎賁采騎  虎賁 采騎、
飛象珥鶡  飛象 珥鶡あり。
鐘鼓鏗鏘  鐘鼓は鏗鏘たり、
簫管嘈喝  簫管は嘈喝たり。
万騎斉鑣  万騎は鑣(くつわ)を斉しくし、
千乗等蓋  千乗は蓋を等しくす。」
夷山填谷  山を夷(たひ)らげて谷を填め、
平林滌藪  林を平らげて藪を滌(すす)ぐ。
張羅万里  羅を万里に張り、
尽其飛走  其の飛走を尽くす。」
翟翟狡兎  翟翟たる狡兎、
揚白跳翰  白を揚げて跳翰す。
猟以青骹  猟するに青骹を以てし、
掩以修竿  掩ふに修竿を以てす。」
韓盧宋鵲  韓盧 宋鵲は、
呈才騁足  才を呈して足を騁す。
噬不尽緤  噬むに緤を尽くさず、
牽麋掎鹿  麋を牽きて鹿を掎(ひ)く。」
魏氏発機  魏氏は機を発し、
養基撫弦  養基は弦を撫す。
都盧尋高  都盧は高きを尋ねて、
捜索猴猨  猴猨を捜索す。
慶忌孟賁  慶忌 孟賁は、
蹈谷超巒  谷を蹈(ふ)み巒を超ゆ。
張目決眥  目を張り眥(まなじり)を決して、
髪怒穿冠  髪は怒りて冠を穿つ。」
頓熊扼虎  熊を頓(たふ)し虎を扼(おさ)へ、
蹴豹搏貙  豹を蹴り貙を搏(う)つ。
気有餘勢  気に餘勢有り、
負象而趨  象を負ひて趨(はし)る。」
獲車既盈  獲車は既に盈(み)ち、
日側楽終  日側(かたむ)きて楽終はる。
罷役解徒  役を罷(や)め徒を解き、
大饗離宮  大いに離宮に饗す。」
乱曰  乱に曰く、
聖皇臨飛軒  聖皇は飛軒に臨み、
論功校猟徒  功を論じて猟徒を校(くら)ぶ。
死禽積如京  死禽 積みたること京の如く、
流血成溝渠  流血 溝渠を成す。
明詔大労賜  明詔 大いに労賜し、
太官供有無  太官 有無を供す。
走馬行酒醴  馬を走らせて酒醴を行(まは)し、
駆車布肉魚  車を駆りて肉魚を布(し)く。
鳴鼓挙觴爵  鼓を鳴らせば觴爵を挙げ、
撃鍾釂無餘  鍾を撃てば釂(のみつく)して餘り無し。
絶網縦麟麑  網を絶ちて麟麑を縦(はな)ち、
弛罩出鳳雛  罩(かご)を弛めて鳳雛を出す。
収功在羽校  功を羽校に収め、
威霊振鬼区  威霊 鬼区に振るふ。
陛下長歓楽  陛下 長(とこしへ)に歓楽あれ、
永世合天符  永世 天符に合せん。」

【押韻】
清(下平声14清韻)、兵・明(下平声12庚韻)、停(下平声15青韻)。軋(入声14黠韻)、鶡・喝(入声12曷韻)、蓋(入声28盍韻)。藪・走(上声45厚韻)。翰・竿(上平声25寒韻)。足(入声03燭韻)、鹿(入声01屋韻)。弦(下平声01先韻)、猨(上平声22元韻)、巒・冠(上平声26桓韻)。貙・趨(上平声10虞韻)。終・宮(上平声01東韻)。徒(上平声11模韻)、渠・魚・餘(上平声09魚韻)、無・雛・区・符(上平声10虞韻)。

【通釈】
初冬十月、清冽な陰の気の中、武官たちは軍事訓練に心身を引き締め、一軍を率いて予行演習を行う。大きな亀で占えば重ねて吉兆を得、大いなる星の光はくっきりと明るく輝いている。天子を乗せた車の先導者が道を先払いすれば、風は止み、雨も上がった。」
天子の馬車が出発して、馬の轡の鈴がかすかに鳴る。猛虎のごとき兵士、鮮やかな色どりの騎兵たちは、象牙で飾られた疾走する車馬を操り、鶡の羽根飾りを付けた冠を戴いている。鐘鼓はじゃらんじゃらんと鳴り響き、簫管はしょうしょうと音を上げて吹きわたる。万を数える騎兵たちはくつわを並べ、千もの馬車は蓋いを揃えて進みゆく。」
一行は山を平らげ、谷を埋め、林をなぎ倒し、薮を払う。網羅を万里の広域に張り巡らし、そこに生息する鳥獣たちを尽く捕らえてゆく。」
ぴょんぴょんと敏捷に跳ねる兎は、白い姿を見せて高く飛ぶ。それを、青い脛を持つ鷹を放って捕らえ、長い矢柄を使って覆いとる。」
韓盧や宋鵲のごとき猛犬は、その才を存分に発揮して疾駆し、身をつなぐ綱が尽きるより前に獲物に噛みつき、大小の鹿を引きずり出す。」
かの魏氏は優れた技で石弓を発射し、養基は自慢の弓を撫でて時機を待つ。都盧の人々は巧みに高所によじ登って、猴猨を探し出す。慶忌や孟賁のごとき勇者たちは、谷を踏みしだき、山を越えてゆく。その目を見張りまなじりを決し、髪は逆立って冠を突き破る。」
熊を打ち倒し、虎を組み伏せ、豹に蹴りを入れ、貙を搏ち取る。気力に余勢のある彼らは、さらに象を背負って走る。」
獲物を乗せた車はすでに満杯となり、日が傾いて楽しみは終わりを告げる。狩猟に従った夫役や人足を解放し、離宮で大いに饗宴を催す。」
歌いおさめにいう。
聖なる皇帝陛下は聳え立つ高楼の闌干から眺め渡し、狩人たちの獲物を比べて査定する。仕留められた禽獣は小高い丘のように積み上げられ、流れ出る血は溝渠のように溜まっている。英明なる陛下からの詔によってふんだんに褒美が下賜され、給仕係はありったけのものを人々に提供する。馬を走らせて酒や肴を配って回り、車を駆って肉や魚を行き渡らせる。太鼓の音を合図に杯を挙げ、飲み尽くせば鐘を打ち鳴らして知らせる。網を断ち切って騏驎の子を解き放ち、竹かごを緩めて鳳凰のひなを出してやる。将校たちの働きによって狩猟は収束し、皇帝の威厳は遥かなる遠方にまで響き渡る。陛下におかれては長きにわたって歓楽を尽くされんことを。永遠に天から与えられた符命に合致されんことを祈る。」

【語釈】
○孟冬十月 「孟冬」は冬季の初めの月。この時節、天子は軍事訓練を行う。『礼記』月令、孟冬の条に「天子乃命将帥、講武、習射御、角力(天子は乃ち将帥に命じて、武を講じ、射御を習ひ、力を角(くら)べしむ)」と。
○誡田 軍事訓練に身を引き締める。「田」は、狩猟。
○講旅 軍行の演習を行う。「旅」は、軍事のための移動をいう。
○元亀襲吉 「元亀」は、卜占に用いる大きな亀。「襲吉」は、重ねて吉兆を得る。『春秋左氏伝』哀公十年に「趙孟曰、吾卜於此起兵。事不再令、卜不襲吉。行也(趙孟曰く、「吾は此に卜ひて兵を起こす。事は再びは令せず、卜は吉を襲ねず。行かん)」と。孟冬に卜占を行うことは、『礼記』月令に「命太史釁亀筴占兆、審卦吉凶(太史に命じて亀筴占兆に釁(ちぬ)り、卦の吉凶を審らかにす)」と見える。
○元光著明。「元光」は、大いなる星の光。文脈は異なるが、『史記』巻十二・孝武本紀に、元号の定め方について「二元、以長星曰元光(二の元は、長星を以て元光と曰ふ)」と。「著明」は、天に懸かる光のくっきりとした明るさをいう。『易』繋辞伝上に「県象著明、莫大乎日月(県象の著明なる、日月よりも大なるは莫し)」と。
○蚩尤蹕路 「蚩尤」は、黄帝の乗った車を先導する者として、『韓非子』十過、『論衡』紀妖等に見え、揚雄「羽猟賦」(『文選』巻八)にも、天子の車に添う者の喩えに用いられている。「蹕路」は、露払いをする。
○乗輿啓行 「乗輿」は、天子の乗る車。「啓行」は、出発する。『毛詩』大雅「公劉」に「弓矢斯張、干戈戚揚、爰方啓行(弓矢は斯に張り、干戈戚揚、爰に方に行を啓く)」と。
○鸞鳴幽軋 「鸞」は、天子の車を引く馬の轡に付けられた鈴。『毛詩』小雅「蓼蕭」にいう「和鸞雝雝(和と鸞と雝雝たり)」の疏に「其在軾之和鈴与衡鑣之八鸞、其声和雝雝(其の軾の和鈴と衡鑣の八鸞と、其の声の和すること雝雝たり)」と。「軋」は、物と物とが接触して音が鳴ることをいう。
○虎賁采騎、飛象珥鶡 「虎賁」は、虎のごとき勇猛な兵士。『尚書』牧誓に「武王戎車三百両、虎賁三百人」、孔安国伝に「勇士称也。若虎賁獣、言其猛也(勇士の称なり。虎の獣に賁するが若く、其の猛きを言ふなり)」と。「采騎」は、美しく装飾された騎兵をいうか。「飛象」は、象牙で飾られた飛翔するがごとき車馬をいうか。『楚辞』離騒に「為余駕飛竜兮、雑瑤象以為車(余が為に飛竜を駕し、瑤象を雑へて以て車と為す)」、王逸注に「象、象牙也(象とは、象牙なり)」と。「珥鶡」は、一対の鶡(キジ科)の尾羽を左右に差した冠で、「虎賁」が身につける。『続漢書』輿服志下に「虎賁武騎、皆鶡冠、虎文単衣(虎賁の武騎は、皆鶡冠にして、虎文の単衣なり)」と。
○鍾鼓鏗鏘、簫管嘈喝 「鍾鼓」は、編鐘や太鼓。「簫管」は、簫などの管楽器。「鏗鏘」「嘈喝」は、それらが奏でる音の擬声語。
○万騎斉鑣、千乗等蓋 「騎」は、騎兵。「鑣」は、くつわ。「乗」は、四頭立ての馬車。「蓋」は、車上を覆うもの。類似表現として、班固「東都賦」(『文選』巻一)に「千乗雷起、万騎紛紜(千乗 雷のごとく起こり、万騎 紛紜たり)」、張衡「南都賦」(『文選』巻四)に「騄驥斉鑣(騄驥 鑣を斉しくす)」と。
○夷山填谷 類似表現として、『漢書』巻二十七下之上・五行志七下之上に秦始皇が「務めて地を広げんと欲して」行ったこととして「塹山填谷(山を塹りて谷を填む)」と。
○平林滌藪 類似表現として、張衡「西京賦」(『文選』巻二)に昆明池での狩猟を描写して「摎蓼浶浪、乾池滌藪、上無逸飛、下無遺走(摎蓼浶浪として、池を乾し藪を滌(はら)ひ、上には逸れ飛ぶ無く、下には遺り走る無し)」と。
○張羅万里 類似表現として、『後漢書』巻十六・寇恂伝附寇栄伝に引く彼の上書に、「張羅海内、設罝万里(羅を海内に張り、罝を万里に設く)」と。
○翟翟狡兎 『焦氏易林』巻四「未済之師」に「狡兎趯趯、良犬逐咋(狡兎は趯趯たり、良犬は逐ひて咋(か)む)」との類似句が見える。また、『毛詩』小雅「巧言」に「躍躍毚兎(躍躍たる毚兎)」、その毛伝に「毚兎、狡兎也(毚兎は、狡兎なり)」とあり、『史記』巻七十八・春申君列伝に引く『韓詩』は「趯趯毚兎」に作り、裴駰『集解』に引く『韓詩章句』に「趯趯、往来貌(趯趯は、往来する貌なり)」とある。「翟」「躍」「趯」は音が近似する。
○揚白跳翰 用例の少ない表現。「白」は、兎をその毛の色で表現するか。「翰」は高く飛ぶの意で、「跳」との親和性が高い。
○青骹 青い脛の鷹。張衡「西京賦」(『文選』巻二)に「青骹摯於韝下、韓盧噬於緤末(青骹は韝の下に摯ち、韓盧は緤の末に噬む)」、薛綜注に「青骹、鷹青脛者(青骹は、鷹の青き脛の者なり)」と。
○韓盧宋鵲 「韓盧」は、猛犬の名。たとえば『史記』巻七十九・范睢蔡沢列伝に、秦軍の勇猛さについて「譬若施韓盧而搏蹇兎也(譬へば韓盧を施して蹇兎を搏つが若きなり)」と。前掲注の張衡「西京賦」にも「青骹」と対句で見えていた。「宋鵲」も、猟犬の名。たとえば『礼記』少儀に、犬の献上について「犬則執緤、……既受乃問犬名(犬は則ち緤を執り、……既に受くれば乃ち犬の名を問ふ)」、その鄭玄注に「謂若韓盧宋鵲之属(韓盧・宋鵲の属の若きを謂ふ)」と。なお、「盧」は黒、「鵲」は白黒の斑をいう(『孔叢子』執節)。
○噬不尽緤 犬をつなぐ綱が尽きるより先に獲物を噛んで捕らえる。前掲注の張衡「西京賦」にいう「韓盧噬於緤末」を踏まえる。
○牽麋掎鹿 「麋」は、なれしか。大型の鹿の一種。「掎」は、後ろから足を引っ張って捕らえる。
○魏氏発機 『漢書』巻三十・藝文志、兵技巧家に記された「魏氏射法六篇」に拠りつついう。「機」は、石弓を発射する仕掛け。
○養基撫弦 「養基」は、弓の名人、養由基。前句と併せて、班固「東都賦」(『文選』巻一)にいう「由基発射、范氏施御(由基は射を発し、范氏は御を施す)」を意識した表現。
○都盧 高いところによじ登るのが得意な人。張衡「西京賦」(『文選』巻二)に「都盧尋橦(都盧は橦に尋(のぼ)る)」、また「非都盧之軽趫、孰能超而究升(都盧の軽趫なるに非ずんば、孰か能く超えて究め升らん)」、李善注に引く『太康地志』に「都盧国、其人善縁高(都盧国、其の人は善く高きに縁る)」と。『漢書』巻二十八下・地理志下に、南方の国として「夫甘都盧国」が見えている。
○慶忌 呉王僚の子。機敏さで知られる猛者。『呂氏春秋』仲冬紀、忠廉に「呉王欲殺王子慶忌而莫之能殺(呉王は王子慶忌を殺さんと欲して之を能く殺す莫し)」、高誘注に「呉王、闔廬光、簒庶父僚而即其位。慶忌者、僚之子也。故欲殺之。慶忌有力捷疾、而人皆畏之、無能殺之者(呉王は、闔廬(闔閭)光にして、庶父の僚を簒して其の位に即く。慶忌は、僚の子なり。故に之を殺さんと欲す。慶忌は力有り捷疾にして、人は皆之を畏れ、能く之を殺す者無し)」と。
○孟賁 衛出身の勇者。『史記』巻七十九・范睢蔡沢列伝に「成荊・孟賁・王慶忌・夏育之勇焉而死(成荊・孟賁・王慶忌・夏育の勇にして死す)」、『集解』に引く許慎の注解に「孟賁、衛人(孟賁は、衛の人なり)」と。その勇猛さは、『文選』巻八、揚雄「羽猟賦」の李善注に引く『説苑』に、「勇士孟賁、水行不避蛟竜、陸行不避虎狼(勇士孟賁、水行するに蛟竜を避けず、陸行するに虎狼を避けず)」と。「慶忌」と併せて用いられる例として、前掲の『史記』范睢蔡沢列伝のほか、『漢書』巻六十五・東方朔伝に「勇若孟賁、捷若慶忌(勇なること孟賁の若く、捷なること慶忌の若し)」、これと同文が『風俗通義』正失にも見える。
○蹈谷超巒 谷や山を踏み越えていく。類似表現として、張衡「西京賦」(『文選』巻二)に、狩猟対象となる動物の敏捷さを描写して「游鷮高翬、絶阬踰斥、毚兎聯猭、陵巒超壑(游鷮は高く翬(と)びて、阬(たに)を絶(わた)り斥(さわ)を踰え、毚兎は聯猭して、巒(やま)を陵え壑(たに)を超ゆ)」と。
○張目決眥、髪怒穿冠 力が全身に漲って最高潮に達した状態を表現する。類似表現として、たとえば『史記』巻七・項羽本紀に、鴻門の会に乱入した樊噲の様子を描写して「瞋目視項王、頭髪上指、目眥尽裂(目を瞋(いから)せて項王を視、頭髪は上に指し、目眥(まなじり)は尽く裂く)」、同巻八十六・刺客列伝(荊軻)に、秦王暗殺のために出発する荊軻を易水のほとりで見送る人々を描写して「士皆瞋目、髪尽上指冠(士は皆目を瞋らせ、髪は尽く上のかた冠を指す)」と。
○貙 狸に似た獣。『説文解字』九篇下に「貙、貙䝢、似貍(貙は、貙䝢にして、貍に似たり)」、「貍、伏獣、似貙(貍は、伏獣にして、貙に似たり)」と。
○獲車既盈 類似表現として、宋玉「高唐賦」(『文選』巻十九)に「獲車已実(獲車は已に実てり)」と。
○乱 歌辞の末尾で全体をまとめる部分。「霊芝篇(鼙舞歌2)」(05-41)の語釈を参照。
○聖皇 皇帝に対する尊称。「応詔」(04-08)に曹丕を指す言葉として見え、「聖皇篇(鼙舞歌1)」(05-40)以下五篇のすべてに登場する。
○臨飛軒 高楼の闌干に手をかけて眺めわたす。「臨軒」の語は、「大魏篇(鼙舞歌3)」(05-42)に「陛下臨軒笑(陛下は軒に臨みて笑ふ)」と見える。ここでは「軒」に「飛」を付して、その建物が飛翔せんばかりにそそり立っているさまを形容する。そうした「飛」の用例として、たとえば「東征賦」(01-01)に「登城隅之飛観兮(城隅の飛観に登る)」、「遊観賦」(01-02)に「渉雲際之飛除(雲際の飛除を渉る)」、「登台賦」(02-06)に「連飛閣乎西城(飛閣を西城に連ぬ)」、「雑詩六首」其六(04-05-6)に「飛観百餘尺、臨牖御櫺軒(飛観 百餘尺、牖に臨みて櫺軒に御る)」とある。
○論功 功績を査定する。
○校猟徒 狩人の仕留めた獲物を比べる。「猟徒」は、用例として張衡「西京賦」(『文選』巻二)に「縦猟徒(猟徒を縦(はな)つ)」と。
○積如京 高い丘のようにうず高く積み上げられる。うず高いという意味での「京」は、前掲「西京賦」の句のすぐ前に「燎京薪(京薪を燎(や)く)」と見える。
○流血 狩猟の成果物を表現する語として、曹丕「校猟賦」(『藝文類聚』巻六十六)に「流血赫其丹野、羽毛紛其翳日(流血は赫として其れ野を丹(あか)くし、羽毛は紛として其れ日を翳(おほ)ふ)」と。
○明詔 英明なる方から下された詔。詔の美称。「応詔」(04-08)に「粛承明詔(粛みて明詔を承く)」と既出。
○労賜 ねぎらい、褒美を下賜する。
○太官 宮中の食事を掌る役人。『漢書』巻十九上・百官公卿表上の顔師古注に「太官、主膳食(太官は、膳食を主る)」と。
○供有無 ありったけのものを提供する。「有無」は、いわゆる偏義複詞で、専ら「有」の方に意味がある。
○走馬行酒醴、駆車布肉魚 馬車を用いて、広い宴席に居並ぶ客人たちに酒食を行き渡らせたことをいう。同様な情景を描写した作品として、張衡「西京賦」(『文選』巻二)に「酒車酌醴、方駕授饔(酒車もて醴を酌し、駕を方(なら)べて饔を授く)」、薛綜注に「酒肴皆以車布之(酒肴は皆車を以て之を布く)」と。
○鳴鼓挙觴爵、撃鍾釂無餘 太鼓の音を合図に杯を挙げ、飲み干せば鐘を打って知らせるという意味か。類似表現として、張衡「西京賦」の前掲句に続けて「升觴挙燧、既釂鳴鐘(觴を升ぐるに燧(のろし)を挙げ、既に釂(のみつく)せば鐘を鳴らす)」と。下の句、『宋書』楽志四は「鍾撃位無餘」に作る。
○絶網縦麟麑、弛罩出鳳雛 「麟麑」は、仁獣騏驎の子、「鳳雛」は、神鳥鳳凰のひな。両者を併せて登場される例として、『焦氏易林』巻三「恒之坎」に「麟麑鳳雛、安楽無憂」とある。「罩」は鳥を捕らえるための竹製の籠。
○収功在羽校 「羽校」は、羽飾りを付けた将校の意か。「在」は、於と同義の助字として捉えておく。一句は、「功」を「羽校」に於いて「収」める、つまり、将校たちの尽力により収穫を手にするの意か。
○威霊振鬼区 「威霊」は皇帝の威厳。「鬼区」は、遥かな遠方。班固「典引」(『文選』巻四十八)に「仁風翔乎海表、威霊行乎鬼区(仁風翔乎海表、威霊行乎鬼区)」、蔡邕注に「鬼区、絶遠之区也(鬼区とは、絶遠の区なり)」と。
○合天符 天から授けられた符命に合致する。『論語比考讖』(『文選』巻四十七、袁宏「三国名臣序賛」李善注等に引く)に、「君子上達、与天合符(君子 上達せば、天と符を合す)」と。