曹植「雑詩六首」と「情詩」

『文選』巻29所収の曹植による五言「雑詩六首」は、
その直前に、曹植の四言「朔風詩一首」があり、
その直後には、曹植の五言「情詩一首」が続いています。

「微陰翳陽景(微陰 陽景を翳ふ)」に始まる「情詩」は、
『玉台新詠』巻1では、曹植「雑詩五首」の三首目として収載されています。

では、『文選』はなぜ、
この「微陰翳陽景」詩を「雑詩六首」に組み入れなかったのでしょうか。
同じ五言詩であり、しかも同時期の選集『玉台新詠』は「雑詩」としているのに、
「情詩」として別立てにしているのには、何らかの根拠があったはずです。

『文選』という作品選集は、
すでにある選集から、更に秀作を選りすぐったものと見られますが、*
その先行する選集で、「雑詩六首」と「情詩」とは別の詩群に属していたのでしょうか。

もしそうだとすると、両者がそれぞれに属する詩群はどう異なっていたのでしょうか。

そもそも「雑詩」とは何か。
この問題については、かつて触れたことがあります。(2021.02.21)

また、曹植の「雑詩」という作品群についても、
二度ほど考察したことがあります。(2020.06.23)(2020.07.11)

けれども、それらは十分な検証に基づくものとは言えません。

今、「情詩」と「雑詩六首」との分岐点に注目し、
曹植「雑詩六首」の輪郭を明らかにできないかと考えています。

2024年4月19日

*岡村繁「『文選』編纂の実態と編纂当初の『文選』評価」(『日本中国学会報』第38集、1986年、『文選の研究』(岩波書店、1999年)に収載)を参照。