04-17-2 閨情 二首(2)

04-17-2 閨情  閨情(2)

【解題】
音楽を奏でる歌姫の様子を描写した四言詩。そこから、宴席で詠じられた詩歌と推測することもできるかもしれない。『藝文類聚』巻十八「美婦人」に「魏陳王曹植詩」として収載。五言の「閨情」詩(04-17-1)との関連性は未詳。

有美一人  美なる一人有り、
被服繊羅  繊羅を被服す。
妖姿艶麗  妖姿 艶麗にして、
蓊若春華  蓊たること春の華の若し。
紅顔韡曄  紅顔は韡曄たり、
雲髻嵯峨  雲髻は嵯峨たり。
弾琴撫節  琴を弾じ節を撫し、
為我絃歌  我が為に絃歌す。
清濁斉均  清濁 斉均にして、
既亮且和  既に亮らかに 且つ和す。
取楽今日  楽しみを今日に取り、
遑恤其他  其の他を恤(うれ)ふるに遑(いとま)あらんや。

【通釈】
薄物の衣を身に纏った美しい人がひとり。その艶麗な姿は、咲き誇る春の花のように生命力にあふれている。紅色のかんばせは光り輝き、雲のように結い上げた髪は高々と聳えている。彼女は琴を奏で、拍子をとって、わたしのために絃をつま弾きつつ歌ってくれる。清濁の音が調和して、その声はくっきりとよく通る上に和やかだ。楽しみを今日というこの日に尽くし、今はその他のことを気に掛ける暇もない。

【語釈】
○有美一人 『毛詩』鄭風「野有蔓草」にいう「有美一人、清揚婉兮、邂逅相遇、適我願兮(美なる一人有り、清揚婉たり、邂逅相遇はば、我が願ひに適せん)」の一句をそのまま用いる。底本は「有一美人」に作る。今、『藝文類聚』に拠って改める。
○被服繊羅 美人の装いを描写して、『文選』巻二十九「古詩十九首」其十二に「燕趙多佳人、美者顔如玉。被服羅裳衣、当戸理清曲(燕趙に佳人多し、美なる者は顔玉の如し。羅の裳衣を被服し、戸に当たりて清曲を理む)」とあるのを踏襲する。「繊羅」は、薄物の綾絹。美女の衣裳を形容して、司馬相如「子虚賦」(『文選』巻七)に「雑繊羅、垂霧縠(繊羅を雑へ、霧縠を垂る)」と。
○韡曄 明るく盛んに輝いているさま。双声語。『文選』巻二、張衡「西京賦」に「飾華榱与璧璫、流景曜之韡曄(華榱と璧璫とを飾り、景曜の韡曄たるを流す)」、薛綜注に「韡曄、言明盛也(韡曄とは、明るく盛んなるを言ふなり)」と。ここでは、若々しい顔色を形容する。
○嵯峨 高くけわしく聳え立つさま。畳韻語。ここでは、高々と結い上げた髪を形容する。
○撫節 拍子をとる。
○清濁 高く澄んだ音と、低く沈んだ音。『礼記』楽記に「倡和清濁、迭相為経(清濁を倡和し、迭相(たがひ)に経を為す)」、鄭玄注に「清謂蕤賓至応鐘也。濁謂黄鐘至中呂(清とは蕤賓より応鐘に至るを謂ふなり。濁とは黄鐘より中呂に至るを謂ふなり)」と。
○斉均 均等にバランスが取れている。
○既…且… 連語。十分……である上に、しかも……でもある。
○取楽今日、遑恤其他 類似表現が、前掲の張衡「西京賦」に「取楽今日、遑恤我後(楽しみを今日に取り、我が後を恤(うれ)ふるに遑(いとま)あらんや)」と見える。「遑恤」は、『毛詩』邶風「谷風」、同小雅「小弁」に、「我躬不閲、遑恤我後(我が躬すら閲れられず、我が後を恤ふるに遑あらんや)」を踏まえた表現。